とはいえ、底なしのカリスマ性でトーンの変化をものともせず作品を引っ張っていくのはガスコンだ。各種映画賞で最優秀主演女優賞候補として話題に上って当然。

2つの全く異なる人格をつくり出し、手術前と後で歌声まで変えて、エミリアが初めて登場するシーンで彼女が自分の体に抱く違和感を声と表情だけで表現する。

昨年のカンヌ国際映画祭での反応は複雑で、熱狂もあれば、スタイルもムードも寄せ集めで登場人物の描き方に一貫性がないという指摘もあった。道徳的矛盾をはらみ、時としてエキセントリックで、終始予測不能だが度量の大きいエミリアを、結局どう理解すればいいのか。

個人的にはすっかり引き込まれたが、オディアール(心身共に男性だ)の登場人物の扱い方には、哀れなトランス女性というありがちなイメージにくみするものがあるのは確かかもしれない。

それでも、ガスコンの俳優としての度量と巧みさは、そうした限界を超えることを可能にしている。圧巻のラストまで、ガスコンは新たな方法でエミリア・ペレスという役(と作品)を掘り下げ続ける。要するに、本当の自分になるというのは終わりのないプロジェクトなのだ。

©2025 The Slate Group

EMILIA PÉREZ

エミリア・ぺレス

監督╱ジャック・オディアール

主演╱カルラ・ソフィア・ガスコン、ゾーイ・サルダナ

日本公開は3月28日

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