<突然のドゥテルテ前大統領の逮捕・移送。国際司法裁判所で裁かれる可能性のある「罪のすべて」とフィリピン政界の「仁義なき戦い」の行方>

フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ前大統領は、間もなくアジアの国家元首経験者として初めて国際刑事裁判所(ICC)で裁かれるかもしれない。ICCは「超法規的殺害」の容疑でドゥテルテの逮捕状を発行し、フィリピンの警察が3月11日に執行した。

ドゥテルテ政権時代には薬物犯罪対策を目的に行われた弾圧で、当局発表によると6000人以上が殺害された。だがドゥテルテは政策で物議を醸しても、2022年に大統領の座を去っても、引き続き影響力を保ち続けている。

今回の逮捕は国内政治にどう影響するのか。果たしてドゥテルテの影響力の終焉を意味するのか。カリフォルニア大学バークレー校のリサンドロ・クラウディオ(Lisandro Claudio)准教授(フィリピン史)に、ニュースサイト「ザ・カンバセーション(The Conversation)」が話を聞いた。

◇ ◇ ◇
──ドゥテルテの逮捕と彼の容疑について、これまで分かっていることは?

11年11月1日〜19年3月16日における人道に対する罪を問われた。大統領在任中だけでなく、その前に南部ミンダナオ島ダバオの市長だった期間も含んだ形だ。

ドゥテルテは16〜22年に大統領を務めた。在任中の19年、彼はフィリピンをICCの設立条約であるローマ規程から脱退させた。しかしICCの判断では、脱退前の犯罪には捜査権が及ぶという。

ドゥテルテには、民間人に対する組織的な殺害、拷問、レイプを監督した疑いがある。彼はダバオを中心とする地域での「即決処刑」や1000人以上の殺害・強制失踪に関与した自警団組織「暗殺部隊」の事実上のリーダーだったとされる。

大統領となってからはこれを国家戦略に位置付け「超法規的殺人」を国家警察の方針に含めた。

逮捕状の文面やフィリピン国内の報道によれば、暗殺部隊の元隊員や警察官が検察側の証人になるかもしれない。

──フィリピン政府が今回の逮捕に果たした役割は?

逮捕とオランダへの移送にはフィリピン政府の協力があったようだ。フェルディナンド・マルコスJr.大統領は逮捕後に記者会見を開き、国際刑事警察機構(インターポール)への支持を表明した。インターポールはフィリピン側がICCの逮捕状を受け取った後、その執行を要請した。

マルコスの会見から分かるのは、インターポールに従うしかない理由が2つあったということだ。第1に、民主主義国なら国際規範に従うことを期待される。

第2に、フィリピンは国外逃亡者の逮捕に関してインターポールの支援を受けてきた。マルコスが言いたいのは、ICCの逮捕状を執行することが国益にかなうということだった。

ドゥテルテ前大統領の逮捕に抗議する支持者
ドゥテルテ前大統領の逮捕に抗議する支持者(3月11日) AP/AFLO

──マルコスの政治的利益にもなるのか。

フィリピンは、いつ誰を逮捕するかをICCに指図することはできないが、今回の逮捕がマルコスにとって悪いタイミングだったわけでもない。

フィリピンでは25年5月に中間選挙が行われる。マルコスはサラ・ドゥテルテ副大統領(ロドリゴの娘)との間に確執が続いており、ICCの動きを利用して権力基盤を固めようとしている。

22年、マルコスはサラを副大統領候補にして大統領選に臨んだ。しかし政界の2つの「王朝」の連合は、就任後、かなり早い時期に崩壊した。

マルコスの父は、独裁者だった元大統領フェルディナンド・マルコス。彼と妻イメルダの家系は、現在も有力な一族だ。マルコスのいとこであるマーティン・ロムアルデス下院議長とサラの対立は、両家の関係に緊張をもたらした。

だが背景には、ドゥテルテ家とマルコス家の政策面での相違もあった。特にマルコスJr政権下で、フィリピンは再び米軍を受け入れた。南シナ海で海洋進出を強める中国に対抗するため、対米関係強化に軸足を戻している。

中国により近いドゥテルテ家は、このアプローチを否定してきた。マルコスが大統領に就任した後の23年、ロドリゴは特使のような立場で北京を訪問し、中国の習近平国家主席と会談した。だがこれは、ロドリゴと習との個人的な関係によるものであることが次第に明らかになった。

──今回の件でドゥテルテ一族が影響力を失う可能性は?

マルコスはそれを期待しているかもしれない。父親がICCに訴追され、娘が弾劾されれば、ドゥテルテ一族の権力は弱まるだろう。

これがマルコスにとって重要なのは、サラが次期大統領を目指すと明らかにしているためだ。2人の険悪な関係から、サラが権力を握ればマルコス一族を攻撃するという見方が広まっている。

ただし、ロドリゴのカリスマ性を過小評価してはならない。彼はフィリピンでドナルド・トランプ米大統領のような存在だ。カリスマ性、ユーモア、支持者に向ける温かさから、ロドリゴは大統領在任中に高い人気を集めていた。

国民は、サラをはじめ政界にいるドゥテルテ家の3人の子供たちには、そのカリスマ性を感じていない。フィリピン政界は性差別が強く、サラよりもロドリゴのような強気な男性のほうが支持される。

サラには自身の問題もある。特に多額の機密費を不正使用した疑いから弾劾訴追されたことは、大きな要素だ。

──これで政界の対立にさらに拍車がかかるのか。

どうだろう。ロドリゴの逮捕は短期的には、マルコスにとって明らかに好都合だ。ドゥテルテの逮捕に抗議する支持派のデモの規模が小さいことを見れば、逮捕に対する大きな反発は起こらないだろう。

だが重要なのは、次に何が起こるか、それがどのように報じられるかだ。フィリピン人は政治的な殉教者が大好きだ。01年、ジョセフ・エストラダが大統領を辞任した直後に不正蓄財の疑いで逮捕・起訴されると、支持者の抗議活動が全国に広がった。

ドゥテルテの場合も、同じことが起こるかもしれない。

The Conversation

Lisandro Claudio, Associate Professor of Southeast Asian Studies, University of California, Berkeley

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.

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