悲劇を暴き出す芸術の力

私たちは開かれた対話を再構築する必要がある。著述家や芸術家が結集しなければならない。

67年にジャンポール・サルトルをはじめとする人々が立ち上がり、ベトナムにおける戦争犯罪を裁くラッセル法廷が開催された。サルトルは66年9月に慶應義塾大学を訪れ、講演で次のように語っている。

「知識人とは自分自身や社会において、現実的な真実の探求と支配的なイデオロギーとの対立に気付く人間である......引き裂かれた社会の産物である知識人は、社会の痛みを内在しているが故にその証人となる」

しかし今日、知識人の声はほとんど聞こえない。献身、言論の自由、自律は芸術家の力を支える柱だ。芸術家は自らの目を通して私たちに警鐘を鳴らし、世界の激変を予見して進行する悲劇を明らかにし、暴き出し、非難する。

『ゲルニカ』は何度も生まれ続けている。

写真家の畠山直哉が2018年から撮り続けてきた作品群『津波の木』の破壊的な力も忘れずにいたい。

畠山の故郷・岩手県陸前高田市で大震災の悲劇を目撃し、その痕跡を刻み込んだ殉教の木々は、沈黙したまま引き裂かれ、切断されている。その姿は私たちが経験したこの1年の本質を語っている。

新しい1年には、どんな芸術を生む前兆が待ち受けているだろう。

©Project Syndicate

newsweekjp20241227021026-061d3f539ccd433b6673bba69c524eb8e837e273.jpgアニー・コーエンソラル

ANNIE COHEN-SOLAL

ミラノのボッコーニ大学社会政治学部卓越教授。芸術の社会史に詳しい。著書に『サルトル伝』(邦訳・藤原書店)、『異邦人ピカソ(Picasso the Foreigner)』(未邦訳)など。
LUC CASTEL/GETTY IMAGES
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