犯罪学では、人に注目する立場が「犯罪原因論」であるのに対し、場所に注目する立場は「犯罪機会論」と呼ばれている。
犯罪機会論は、犯罪者の動機や性格には興味を持たない。犯罪者がどんな人だろうが、犯行パターンには共通点があり、その共通点を抽出することに興味を示す。その共通点を一言で表すと、犯罪者は景色を見て、そこが「入りやすく見えにくい場所」だと判断すれば犯行を始めるが、そこが「入りにくく見えやすい場所」だと判断すれば犯行をあきらめるということだ。
この基準に従って、景色の中で安全と危険を識別する能力のことを「景色解読力」と呼んでいる。景色からのメッセージをキャッチできれば、危険を予測し、警戒レベルを上げられるので、だまされずに済む。
こうした景色解読力を高める方法が「地域安全マップづくり」だ。地域安全マップとは、犯罪が起こりやすい場所を風景写真を使って解説した地図である。具体的に言えば、だれでも(犯人にも)入りやすく、だれからも(犯行が)見えにくい場所を洗い出したものが地域安全マップだ。だれでも楽しみながら「犯罪機会論」を学ぶことができ、その過程で景色解読力が自然に高まる手法として、2002年に筆者が考案した。
地域安全マップづくりは、2008年に、内閣総理大臣をトップとする政府の犯罪対策閣僚会議が策定した『犯罪に強い社会の実現のための行動計画』で採用され、現在では、小学校の教科書でも取り上げられている。最近では、Googleストリートビューを用いたフィールドワーク・シミュレーションを行うことで、オンライン方式でも「地域安全マップ教室」を開催できるようになった。

地域安全マップづくりが子どもの景色解読力を高めることは、複数の量的調査で明らかにされている。
そこで以下では、子どもたちから届いた礼状を紹介したい。これらは質的な調査資料として、きわめて貴重なものだからだ。





さて、どうだろうか。子どもたちの文章から、教育的な効果を読み取ることができただろうか。
いずれにしても、子どもを守るためには、「だまされない方法」を教えることが欠かせない。そのためには、「人」から「場所」への発想の転換──これが必要なのである。
米・イラン戦争で変わる地域紛争の「大前提」/石油危機を恐れるべき理由