犯人は、優しいお兄さんを演じて男児を屋上に連れ込んだ。直後、はさみで脅して服を脱がせ、肌を傷つけた。しかし、男児が騒いで暴れたため抱きかかえ、そのまま投げ落としてしまった。逆上し、あるいはパニックになり、一層暴力的な行為に及んだのだ。この点、毎日新聞は、「予想以上の抵抗にパニック状態になり、発作的に投げ落とした可能性が高い」と報道している。

犯罪機会論は最悪の事態を想定する

日本では、「防犯ブザーを鳴らそう」「大声で助けを呼ぼう」「走って逃げよう」という提案が一般的だが、これらも、長崎男児殺害事件と同じように、犯罪者を逆上させたりパニックにさせたりする危険がある。

このように、襲われたらどうするかという「クライシス・マネジメント」は、襲われないためにどうするかという「リスク・マネジメント」に比べ、子どもが助かる可能性は低い。リスクは「危険」であり、犯罪が起きる前の話だが、クライシスは「危機」であり、犯罪はすでに起きている。例えば、学校で火災が発生したとき、火が燃え広がるのを防ぐために散水スプリンクラーを設置しておくのが「リスク・マネジメント」であり、みんなでバケツの水をかけるのが「クライシス・マネジメント」である。

犯罪機会論という「科学」は、最悪の事態を想定するので、追い込まれる前の「リスク・マネジメント」に結びつく。反対に、「がんばれば何とかなる」という「精神論」は、行き当たりばったりなので、追い込まれた後の「クライシス・マネジメント」に結びつく。

長崎男児殺害事件は、痛ましい犠牲の上に、犯罪機会論と「リスク・マネジメント」の重要性を教えてくれている。

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