ただ、産業界は複雑だった。報復を懸念して、抑制的な対応を期待していた。当時、中道左派の連立政権を率いるオラフ・ショルツ首相(社会民主党)も、北京との対話を優先し、より慎重な姿勢を見せていた。

しかし、識者やメディアは、「独裁的な権威主義国家は経済やエネルギーを政治的な武器として使い、いかに私たちを意のままにしようとするか、主権を脅かすか」を主張した。それはロシアがガスというエネルギーを利用してきたのと同じだった。ロシアにガスを深く依存していたドイツ人は、ウクライナ戦争が始まって以来高騰するエネルギー価格に苦しんでおり、身に迫る問題だったのだ。

この世論に、ショルツ首相もドイツ産業連盟(BDI、ドイツの経団連)も説得された。しかし経済に与える不安は払拭できず、デカップリング(両者の分断)は望まないものの、デリスキング(リスクの軽減化)は必要だという戦略となった。

この事件はEUの団結を促す結果にもなり、2023年にEUでは「反威圧措置」規則が発効した。このときからEUの中国戦略は根本的に変化した。EUは(ドイツも)「一つの中国」を決して否定していないが、デリスキングの方向へと舵を切った。

こうして欧州で台湾問題は、国の大小に関わらず民主主義を守るという、一種の「象徴」となっているのだ。

経済政策と防衛政策の統合という戦略

ドイツ政府は、中国と対話を続ける努力をする一方で、今や明確に、経済政策と防衛政策を統合する必要があると考えている。

今年に入って、中国によって4月と10月の二度にわたるレアアース輸出規制問題が起きた。さらに10月、中国政府が、オランダに本社を置くネクスペリア社の中国で製造された半導体の輸出を禁止した問題も起きた。どちらもEU経済に大きなショックと混乱を与え、ドイツ経済への影響は特に大きい。

「一時休戦」は、戦術は変えても、戦略の思考に大きな影響は与えないだろう。ドイツは「経済的安全保障は国家安全保障である」という考えをますます強めてきている。EUも三つの大きな戦略を進めている。

折しも11月7日、日本の衆院予算委員会で、台湾有事と日本の立場に関する問題が取り上げられた。日本人は今後どうしていきたいのだろうか。

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