<民主党の重鎮、ナンシー・ペロシ下院議長の自宅に押し入り、82歳の夫の頭部をハンマーで打ち大けがを負わせ、逮捕。「ペロシ叩き」は5000万ドルを注ぎ込むほどの共和党の重要戦略だが、本当に叩いてはいけない>

ナンシーはどこだ!──10月28日未明、そう叫びながら男が民主党の重鎮、ナンシー・ペロシ下院議長の自宅に押し入った。彼女は留守だったが、男は82歳の夫の頭部をハンマーで打ち大けがを負わせ、逮捕された。

共和党の政治家は襲撃を非難したが、長年ペロシへの怒りや憎しみをあおってきた反省は一切ない。

We do not condone the attack on Pelosi's home...We prefer to attack her character!(われわれはペロシ宅への攻撃を容認しない...人格への攻撃のほうがいい!)と、風刺画のセリフどおりの姿勢だ。

Tシャツにあるように、共和党はHammering Pelosi since 2003(2003年〔ペロシの民主党トップ就任の年〕以来ペロシをたたき続けている)。もちろん作者は批判を意味する「たたく」と「ハンマー」をかけている。お見事。これを上回るダジャレは思い付かない。まさに「頭打ち」だ。

多少不謹慎でも、風刺画家や芸人の言葉遊びは許される(と信じたい)が、共和党のペロシたたきは度を超えている。

何度も「バカ」「ウソつき」「売国奴」「悪」などと罵倒するし、トランプ前大統領が「狂人」と罵ったことで、アマゾンでは「ペロシは狂人だ」という文言とトランプの顔が描いてある野球帽が買える。これをかぶる人の正気も疑われそうだけどね......。

これらは口が滑った発言ではない。民主党で最も有力な政治家の1人であるペロシをたたくことは共和党の重要な戦略で、今年だけで「反ペロシ」広告に5000万ドルもつぎ込んでいる。

過去にはペロシの選挙区カリフォルニアの共和党下院議員候補が、ペロシ似の役者が悪魔崇拝のリーダーを演じるCMを作った。

今年も共和党の公認を狙う候補が自らニセペロシやニセバイデン大統領を銃で撃つCMが流れた(経済不安が高まるアメリカだが「ペロシの物まね業」はかなり景気がよさそう!)。

結局、共和党のこんなレトリックは実害にもつながっている。去年の連邦議会議事堂乱入に参加したトランプ支持者はペロシを悪魔として描いたプラカードを掲げて、彼らも「ナンシーはどこだ?」と叫びながら議事堂に押し入った。

いつもナンシーの居場所が分からないようだが、事件の責任の所在は明らかだ。

ポイント

GOP

米共和党の愛称であるGrand Old Party(古き良き党)を略したもの。この略称のほうがニュースなどで使われる機会が多い。

Nancy Pelosi

ナンシー・ペロシ。2003年に女性初の下院院内総務、07年に初の女性下院議長に就任するなど長年民主党トップの座にあり、共和党と対立する機会が多い。

【動画】襲撃を受けたナンシー・ペロシ下院議長の邸宅