その裏返しで、ロシアとつながるマリ政府が先進国にとって"敵"とも限らない。マリ軍事政権は今年4月、アメリカ政府が500万ドルの報奨金を出していた「イスラーム国(IS)」のアブ・フゼイファ司令官を殺害したと発表した。

とすれば、なおさら他の先進国にとって、スウェーデンに続くことはリスクの高い選択といえる。

スウェーデン自身のイスラーム嫌悪

最後に、現在のスウェーデン政府では極右系の発言力が強く、あえて"反イスラーム的"をアピールしやすい(マリ人口の93% はムスリム)ことだ。

スウェーデンでは2022年9月の総選挙により、民主党を中心とする連立政権が発足した。民主党は「スウェーデン人のためのスウェーデン」を標榜する右派政党で、移民制限などを主張している。

その結果、スウェーデンでは2023年、イスラームの聖典コーランを抗議活動のデモンストレーションとして焼却することが合法と認められた。この方針は当然のようにムスリム系市民やイスラーム各国の強い反発を招き、警察が"治安を脅かす"と反対するなかで決定された。

そこでは民主党の支持基盤へのアピール効果が優先されたといえる。

とすると、現在のスウェーデンの与党・政府にとって"反抗的な"マリへの援助を停止し、懲罰を加えることは、たとえ外交・安全保障の面からほとんど意味がなくても、国内政治的にはイスラーム嫌悪に傾いた支持者を満足させるという意味がある。

ただし、国内外の反発を招いてまで"反イスラーム的"を支持者にアピールしようという政府は、さすがに多くない。

それどころか、他の先進国にとっては、スウェーデンにまともにつきあえば、ガザ侵攻をめぐってイスラーム諸国との間で悪化した関係がさらに悪化しかねない。

とすると、スウェーデンが効果も理由も怪しい"マリとの決裂"に向かったことは、他の先進国からスルーされても不思議でないのである。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

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