ロシアは近年、太平洋艦隊への新型SSBN配備を進めており、そのパトロール海域であるオホーツク海の防衛体制もまた強化されている。また、今後、北極海航路が主要な交通ルートとなるのであれば、オホーツク海はその途上に当たる(実際、ロシア側は北太平洋と北極海については対で言及することが多い)。核抑止力と海上交通線の保護という2つの戦略的課題が重なるだけに、ロシアがオホーツク海で軍事力を強化するのは故なきことではない。

 したがって、北方領土へのミサイル配備は、対日牽制のためにそれをやって見せたというより、もともと軍事的な要請にしたがって行われたものを対日牽制のためにプレイアップしたと理解した方が実態に近いだろう。

 ロシアは10月にも、極東の爆撃機部隊を「基地」から「師団」に改編した際、「日本、グアム、ハワイの間をパトロールする爆撃機部隊を創設した」などと喧伝して見せた。しかし、「基地」から「師団」への改編はロシア空軍の中で進んでいる全体的な動きであり、兵力にも大きな変化があったわけではない。通常の軍事的措置を外向きに大きく宣伝してみせるという、ロシアの常套手段と言ってよい。

今後予想されるロシアの動き

 プーチン大統領の訪日を前にして、この種のプレイアップは今後も続くだろう。

『ヴォエバヤ・ヴァーフタ』によると、択捉島に配備されたバスチョン配備部隊は近く一連のミサイル発射訓練を実施すべく準備を整えている最中であるという。そこにミサイル部隊が配備されている以上、発射訓練が行われること自体はおかしなことではないにせよ、プーチン大統領の訪日前にこうした訓練のタイミングを合わせるなどの動きをロシア側が示してくる可能性は十分に考えられる。

 特にロシアは、歯舞・色丹を引き渡した場合のオホーツク海防衛を懸念し、両島を日米安全保障条約の適用外にするよう要求しているとも伝えられる。北方領土の軍事力強化をアピールすることは、領土交渉に付随する安全保障面の要求を飲ませる材料、という側面もあろう。

 たとえばロシアを代表する日本専門家であるイーゴリ・ストレリツォフ国際関係大学教授は、「日本と隣接している以上、北方領土(のうち、ロシアに残る島々)の非軍事化など考えられない」と有力紙『ガゼータ』に述べているが、たとえ領土交渉を進めるにしても安全保障上の妥協はしたくないというのがロシア側の思惑であろう。

 しかし、牽制は牽制以上のものではなく、これらの新型ミサイル配備によっても北方領土周辺の軍事バランスが著しく崩れるというものではない。来る日露首脳会談においては、多少の軍事的牽制に一喜一憂することなく、日本として主張するべきところは貫いて貰いたいと願う。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。