中国の経済的影響力維持を指示した習近平

2021年8月3日(火)15時48分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

これこそは正に、筆者が主張し続けている「天安門事件後の対中経済封鎖を日本が率先して解除した結果」が招いたものなのである。

このような決定をした日本政府を拙著『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』では「万死に値する」と書いたが、この事実が、IMFによって、このような「姿」で表されていることを知らなかった。

習近平の警告:IOCなど、世界を惹きつけておくためには「現状を崩すな!」

習近平が政治局会議で警鐘を鳴らしているのは「この現状を崩すな!」ということである。

金が金を呼ぶ――。

IMFのこの図は、「二つの物体間に働く力は質量に比例する」という、中学でも習う「ニュートンの重力」法則の類似性を、ふと想起させる。

「金の塊の大きさが大きければ大きいほど、もう一方の物体をより強く惹きつける」のだ。この「塊=チャイナマネー」の大きさを縮めてはならず、「その魅力を維持あるいは拡大させよ」というのが政治局会議で発した習近平のメッセージだと解釈することができる。

今のところバイデン政権は「口だけ」戦略だが、いつ「実質」を伴う方向に転換していかないとも限らない。だから「外部環境」が変化しても中国の影響力を維持もしくは拡大せよというのが習近平のメッセージなのである。

それ以前に「外部環境」が中国に不利な方向に変化しないように鋭意努力せよというのが中共中央から発せられた指示であると解釈しなければならない。

中共中央の指示に従い、都内のシンポジウムで駐日中国大使が講演

それを証明するかのように、政治局会議の同日である7月30日に、中国の孔鉉佑駐日大使が都内で開催されたシンポジウムで講演をし、日本側に「積極的な対中政策」を求めた。このことは朝日新聞DIGITALでも報道されているが、孔鉉佑は日中関係について「健全で安定的な発展が両国の根本的な利益だ」とした上で、「日本には反中感情を煽る勢力がある」と指摘しているようだ。

会議には中国政府から派遣されている御用学者であるような朱建栄(東洋学園大学教授)や極端な親中親韓で知られる鳩山由紀夫(元首相)などが出席し、どうやら「反中感情を煽る勢力」として筆者の名前も取り沙汰されたと友人が教えてくれた。

筆者は中国革命戦において共産党軍によって食糧封鎖を受け死体の上で野宿し、家族を餓死で失っている。その経験を書いただけなのに、中国語に翻訳したドキュメンタリーを中国政府はどんなことがあっても出版させなかった。中国を信じて、何十年待ち続けたかしれない。しかし、その願いは実現されなかった。それどころか中国共産党の負の側面(客観的事実)を書いたことによって私はまるで「犯罪者」のような扱いを受けている。

「事実を書く人間を犯罪者扱いする」社会を批判するのは良心ある者の取るべき姿勢であって、正義と良心において日夜真実を求めて闘っているだけだ。

中国は批判されたくないのなら、中国政府のスローガンである「実事求是(事実を事実として認め、真実を求める)」を実行せよと言いたい。

日本は政界だけでなくメディアを含めて、中共中央の掌(てのひら)の上で動いている。その現実を直視する判断眼を、心ある日本人は是非とも持っていただきたいと心から切望する。


※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

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[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史  習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社、3月22日出版)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』,『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。

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