【独占】押谷仁教授が語る、PCR検査の有用性とリスクとの向き合い方

2020年7月31日(金)06時40分
石戸 諭(ノンフィクションライター)

──偽陽性が出る確率は、今の段階でどれくらいだと考えればいいのか。

そもそも今は、sensitivity( 感度)とspecificity(特異度)を正確に知ることができない。(編集部注:感度とは、あるウイルスを持つ人のうち検査で陽性と正しく判断される割合。特異度とは、あるウイルスを持たない人のうち検査で陰性と正しく判断される割合)

PCRの感度と特異度を正確に知るには、感染しているかいないかが確実に分かっている人を相当数検査する必要がある。しかし感染しているかどうかを知る方法をPCRに頼っているなかでは、確実に感染している人と感染していない人を正確に分けることはできないことになる。

さまざまなデータから、少なくともPCRで正しく陽性と判断される確率は70%くらい。正しく陰性と判断される確率は、100%はあり得ないので99%としても、100人検査すると1人の偽陽性が出る。99.9%だったとしても、1000人検査すれば1人の偽陽性が出る。

――それでも、メディアの中にPCR検査絶対論は根強い。中には、片っ端からPCR検査をして陽性者はどんどん隔離せよという声もある。

おそらく、このウイルスの伝播パターンを理解していない人が全員をPCRせよ、と言っているのだろう。

これは西浦さんの最初のデータで示されたことだが、110人のうち80人くらい、80%近くの人は誰にも感染させていないことが分かっている。十数%は1人にしか感染させていない。ごく一部の数%の人だけ、例外的に非常に多くの人に感染させる。だからこのウイルスは広がっている。つまり、大多数の誰にも感染させない人をいくら見つけても感染制御にはあまり意味がない。

──この数%が誰なのかは分からないということか。

現時点では正確には分かっていない。日本のクラスターの61例を調べた結果、発症する前に感染させる人がいた。感染させるのは発症する1日前が最も多く、2日前もあった。最近、米サイエンス誌掲載の論文に、全体の45%程度が発症前に感染させていたというデータが出ていた。

症状がある人だけを検査していてもその前に感染させてしまう人がいるので、結局は無症状者を含め「国民全員PCR」のようなことをやらなければならなくなるが、たとえそれをやったとしても、正しく陽性と判断される確率は70%だ。しかもこの感度70%というのは発症直後の話で、PCR陽性率が最も高くなるときの割合だ。感染から3日以内の潜伏期間だと、感染していてもPCRが陽性になる確率はほぼゼロだとのデータもある。全体の陽性率を見ると、おそらく感度はもっと下がる。

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