セクハラと闘う女たちに私が100%は共感できない訳

2020年2月19日(水)18時00分
デーナ・スティーブンズ

<アカデミー賞受賞者カズ・ヒロの特殊メークのおかげで、主人公は実在の人物に驚くほど瓜二つ。なのにメディア界で起きた実際のセクハラ事件を描く映画『スキャンダル』に、私が感情移入し切れない理由>

シャーリーズ・セロンが保守系テレビ局FOXニュースの看板キャスター、メーガン・ケリーに扮して登場した瞬間、目を疑った。これって本当にケリーじゃないの?

出演者を不気味なほど実在の人物に似せているのは、カズ・ヒロによる特殊メークだ。彼は先頃、本作品で2度目のアカデミー賞メーキャップ・ヘアスタイリング賞に輝いた。

メーガン・ケリー本人(17年) REUTERS-Lucas Jackson

『スキャンダル』(日本公開は2月21日)は、2016年にFOXニュースのロジャー・エールズCEOをセクハラで告発したケリーたちの闘いを描く。

ジェイ・ローチ監督としては、俳優の外見に気を取られるより物語に入り込んでほしいところだろう。だが最近の実話を映画にすれば、観客の関心は「そっくり度」に向かいがちだ。

この点ではHBOのドラマに先例が2つある。ケビン・スペイシーが00年大統領選の民主党候補アル・ゴアの選挙参謀に扮した『リカウント』と、ジュリアン・ムーアが08年の共和党副大統領候補サラ・ペイリンを演じた『ゲーム・チェンジ 大統領選を駆け抜けた女』。共にローチの作品だ。

『スキャンダル』ではチャールズ・ランドルフ(『マネー・ショート 華麗なる大逆転』)が脚本を担当し、キャストに実力派が顔をそろえた。エールズをジョン・リスゴー、ベテランキャスターのグレッチェン・カールソンをニコール・キッドマン、架空の新人キャスターのケイラ・ポスピシルをマーゴット・ロビーが演じている。

だが社会派のスタッフと有名俳優が顔をそろえたためか、「どこかで見た感じ」が付きまとう。ニューススタジオや会議の場面は緊迫感を高めるために手持ちカメラで撮影され、テレビ画面に映るテロップがストーリーを説明する。

常套手段を多用すれば、観客が感じる怒りや悲しみは浅くなる。組織内で長年続いたセクハラを暴く映画にとって、これはプラスではないだろう。信頼度に疑問符が付くFOXニュースの花形キャスターが告発者であることも、感情移入しにくい一因だ。

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