対韓制裁、ほくそ笑む習近平

2019年7月7日(日)20時13分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

ドイツのデータ分析会社「IPリティックス」による今年5月の調査データでは、5G の技術標準(規格)に関する標準必須特許数で、ファーウェイは1554件と、2位のノキア1427件を上回って世界トップの座にのし上がっていることを示しているが、トランプ政権の攻撃により、トップの座を維持することが危うくなっていた。

6月29日のトランプ大統領の(一時的)敗北宣言に近いようなファーウェイに対する制裁緩和を受けて、息を吹き返しそうではあるが、何と言っても3位と4位にはサムスン電子、そしてLG電子と、韓国勢が控えているのである。

5G必須特許出願の企業別シェアは以下のようになっている。

1.ファーウェイ(中国、民間):15.05%

2.ノキア(フィンランド):13.82%

3.サムスン(韓国):12.74%

4.LG電子(韓国):12.34%

5.ZTE(中興通訊)(中国、国有):11.7%

中国勢は計26.75%だが、韓国勢は25.08%と、中国に迫る勢いなのである。

このような中、安倍首相が韓国勢を叩いてくれるのだ。習近平国家主席にとっては、安倍首相には、どんなに感謝してもし切れないだろう。

安倍首相の対韓制裁のお蔭で、一時陰りを見せていた中国勢の勢いは、輝きを取り戻すことができる。

おまけに日米韓三ヵ国の離間工作に必死だった習近平にとって、日韓の反目は、どんなに心地よいことだろう。そのために親中で御しやすい文在寅氏が大統領に当選することをチャイナロビーを使って応援してきたし、大統領当選後も右往左往する文在寅大統領を「朝飯前のごとく」コントロールしてきた。韓国が反日になってくれれば、中国がしばらく日本に秋波を送っておいしいところだけを頂いても、中国の国内情勢は安泰だ。民意を習近平側に引き寄せておくことができる。

これが、「にんまり」しないでいられるだろうか。

5Gの国際標準仕様を策定するデッドラインは目の前に迫っている。上記必須特許のシェアがカギを握り、その企業、その国の規格が国際標準となって5G世界の覇権を握ることになる。日本にとっては不愉快きわまりない現実が、そこに厳然と横たわっているのだ。そのことにも目を向けなければならない。

追記:なお私、遠藤誉は現在、新しく立ち上げたシンクタンク中国問題グローバル研究所(Global Research Institute on Chinese Issues = GRICI)の所長を務めております。GRICI(グリーチ)にはアメリカの著名な中国問題研究者でトランプ政権にさまざまな形でアドバイスを与えているアーサー・ウォルドロン教授も研究員として参画して下さっています。関心のある方はHPを覗いてみてください。皆さまからのご意見もお待ちしています。今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。

[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

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