キューバ米大使館に対する「音響攻撃」説の真実味

2017年10月6日(金)16時30分
フレッド・カプラン(スレート誌コラム二スト)

<冷戦時代のモスクワでも米大使館の職員にマイクロ波による健康被害が出ていた>

キューバの首都ハバナにある米大使館で異変が起きている。複数の外交官が目まいや頭痛、聴覚障害、疲労を訴えているのだ。キューバ政府または別の何者かによる「音響攻撃」の可能性を懸念したトランプ政権は、大使館職員の約60%をキューバ国外に退避させることにした。

健康被害の原因は不明だが、冷戦時代のスパイ合戦の記録が謎を解く手掛かりになるかもしれない。1970年代、ソ連は首都モスクワの米大使館にマイクロ波ビームの攻撃を仕掛け、当時のAP通信の記事によると職員の間に健康被害が発生した。

ソ連はこの時期、通信システムを無線信号からマイクロ波通信に切り替えていた。無線信号は地球を取り巻く電離層に反射するので、米国家安全保障局(NSA)は大型アンテナで信号を傍受できた。

一方、マイクロ波は伝送距離がずっと短く、ビームの伝送経路が見える場所に受信装置を設置しなければ通信を傍受できない。そのためNSAとCIAはソ連圏の東欧諸国などにスパイを送り、高速道路や電柱などに偽装した受信装置を設置した。

NSAはモスクワの米大使館の10階にも、大掛かりな通信傍受用機器を持ち込んでいた。当時のモスクワは高層ビルがほとんどなかったので、10階からの見晴らしは抜群。マイクロ波受信装置はソ連の当局者間の通話を大量に拾い上げた。市内を車で移動するブレジネフ共産党書記長の電話も傍受できた。

40年前の事件の再来か

この盗聴活動はやがてソ連の情報機関KGBに嗅ぎつけられた。78年1月、ボビー・レイ・インマンNSA局長はウォーレン・クリストファー国務副長官からの電話で起こされた。モスクワの米大使館で火事が発生し、消防署長は10階への立ち入り許可がなければ消火活動をしないと主張しているという。

どうしたらいいか尋ねるクリストファーに、傍受設備の発覚を恐れたインマンは「火事なんて放っておけ」と言った(結局、地元の消防士は消火活動を行った。この時期の米大使館では、原因不明の火事が何度も起きていた)。

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