トランプ後継への隠し切れない野心、元国連大使ニッキー・ヘイリー

2021年3月5日(金)18時00分
ビル・パウエル(本誌記者)

ならば息子が政界に転身しても前途は洋々──のはずだったが、1月6日の議事堂襲撃の後、彼の政治的野望はついえてしまった。あの暴挙を「教唆」したとされる集会で、彼は父親の前座を務めていた。その後も、彼はSNSで父親のあの日の言動を擁護し続けた。まるで、あの日のことは忘れてくれというように。

本気じゃないよね、そんなことはもうやめてくれ。父親を支持してきた人たちでさえ、そう思った。「トランプ家の誰であれ、政界で生き残りたいなら今は父親のイメージからの脱却に全力を傾けるべきだ」と、前出の陣営の元幹部も言う。

共和党はかつて父ブッシュを尊敬していたが、その息子が失政を重ねると、あっさり見捨てた。同じように、もうトランプ家の面々には退場願おうと考える人は共和党の中枢にも少なくない。

そこで台頭してくるのがヘイリーだ。高卒の白人男性ばかりという現状の支持基盤を広げたいのなら、当然の選択肢だろう。彼女の両親はインドからの移民だし、州知事として行政経験も豊富だ。

トランプ政権で国連大使になってからも粛々と任務をこなした。諸外国の国連大使からの評判もよく、その主張にぶれはなかったという。トランプほど強引ではないが、ちゃんとトランプ流の政策を貫いていたと見なされている。

だから共和党内にも、ヘイリーこそトランプ主義と伝統的な保守主義をつなげる人材だと考える人々がいる。この人たちが目指すのは「トランプなきトランプ主義」。トランプのやり方は乱暴過ぎたが、トランプ政権のやったことは正しかったと、彼らは考えている。再選は果たせなかったが、それでも7400万票も集めたではないかと。

女性初の副大統領になったカマラ・ハリスはヘイリーの好敵手(写真は1月の就任式) ANDREW HARMIKーPOOLーREUTERS

是々非々で政策を承継か

ヘイリーの友人たちによると、彼女はずっと前から、トランプの主張に対する党幹部の見方は間違っていると考えていたようだ。

確かにトランプの言い分は共和党の旧来の主張にそぐわないが、実のところ未来はトランプの側にあるのではないか。例えば、自由貿易よりは保護貿易がいい。外国にいるアメリカの兵隊は母国へ帰らせよう。同盟諸国にはもっと防衛費を負担させよう。不法移民は排除しよう。そういうトランプの主張を採り入れてこそ共和党の未来はある。彼女はそう考えているらしい。

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