問題の米投資会社アルケゴスに深入りした野村HD フアン氏復活に賭けた事情とは?

2021年4月5日(月)18時23分

かつて米投資家のビル・フアン氏は、不正取引が発覚し有力ヘッジファンドの閉鎖に追い込まれた後、ウォール街で再起するチャンスをうかがっていた。そこに手を差し伸べたのが、野村ホールディングスだった。

フアン氏のかつての「タイガー・アジア・マネジメント」は、中国株を巡るインサイダー取引で米国と香港の規制当局から処罰対象になり、2012年に閉鎖した。このタイガー時代から野村はフアン氏と関係があった。

事情に詳しい関係者の1人によると、フアン氏がファミリーオフィスのアルケゴス・キャピタル・マネジメントを立ち上げた当初は、野村も他の銀行と同様、取引再開に踏み出さなかった。ただ米国やアジアのハイテク、メディアなどの株式に巨額の投資をしようとするフアン氏の意欲の大きさは、取引相手として無視するにはあまりにも抗しがたい魅力があったようだ。

フアン氏との関係が復活した状況を知る野村の元従業員によると、当時の社内の雰囲気は「彼らは相応の罰金を支払い、問題は全て解決した。そしてビジネスに積極的になっている。大丈夫だ」といった調子だった。それでも野村の東京本社の経営陣がフアン氏との関係再開を承認したのは16年ごろと、やや時間はかかったという。しかし、2人の元従業員によると、いったん認めた後は取引が拡大し、アルケゴスは野村の米国事業で、収益性が10本の指に入るほど高い顧客になった。

野村の米国広報担当者はファン氏と同社との関係についてコメントを控えている。ファン氏もアルケゴスもコメントの要請に応じていない。

フアン氏はうまみのある取引関係を期待した野村に気に入られ、ウォール街の舞台に返り咲いた。その背景を取材して見えてきたのは、米国という世界でも最激戦の金融資本市場で野村が事業を拡大するため、いかに大きなリスクを引き受ける態勢を整えたかだ。

ロイターは10人余りに取材した。フアン氏やアルケゴスについて知っている、もしくは彼らとウォール街との関係を知っている人たちで、野村とアルケゴスとの取引に詳しい2人も含まれる。

そうした野村にとって、フアン氏やアルケゴスとの関係を強化したことが大変な誤算だったと分かったのが3月下旬、米メディア大手バイアコムの株価が急落した時だった。アルケゴスはバイアコム株に対して高いレバレッジを効かせたポジションを構築していたため、金融機関からリスク量増大に見合うだけの相当規模のマージンコール(追加証拠金差し入れ要求)に直面したのだ。

フアン氏の取引資金の調達を助けていたゴールドマン・サックスやモルガン・スタンレーなどの金融機関は、当初、関係する自分たちのポジションの巻き戻しを自重することを検討した。しかし、フアン氏のポジションを支えていた株式銘柄の下げが続いたことから、金融機関は損切りに動いた。保有株を急いで売り始めたのだ。そうした結果、クレディ・スイスと野村がそれぞれ数十億ドル規模の損失に直面している。

フアン氏の2つの顔

ウォール街のバンカーが描写するフアン氏の人となりは、堅実で物腰の柔らかい人物だ。結婚して子どがいて、同氏を知る市場関係者たちによれば、派手で浮世離れした暮らしをしているようにはとても見えない。フアン氏自身もキリスト教の敬けんな信仰心に強く影響を受けていると話していた。同氏の住居はニューヨーク市郊外のニュージャージー州テナフライにあり、不動産情報サイトによると、資産価値は310万ドル(約3億4200万円)ほどだ。大富豪となっている他の多くのファンドマネジャーに比べれば、つつましやかと言える。

ところが投資家としてのフアン氏の行動は、対照的に「超アグレッシブ」で「信じられないほど進んで大胆に振る舞う男とみなされる」と、同氏の経歴を知るあるヘッジファンド投資家は説明する。

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