日本はどれほど「アジア」を知っているのか?

2014年6月2日(月)15時59分
ふるまい よしこ

 イデオロギーからすれば、中国当局としては中国国民による反ベトナム活動が起こるのはもってのほかだ。一つは、反日デモの時にも見られたように、中国国内にはその他さまざまな社会に対する不満が充満しており、常に噴出する機会を狙っていること。反日デモを煽りつつ、当局が全力で抑え込もうとしたのがそれだった。

 次にベトナムが社会主義国であること。実際にはこれまでにもベトナムと中国は現地の人たちの反対にもかかわらず、水力発電、ダム建設など共同開発プロジェクトを強行してきた。それはひとえに中国側のベトナムへの「投資」という魅力もあったが、社会主義国同士の結束関係強化の意味もあった。一方でそのためにベトナム内部では中国に対する不満高まっていることも指摘されている。だがすでにソ連が崩壊し、ドイツも統一され、世界に残る社会主義国は数える程になってしまった今、中国はどこからみても社会主義陣営の筆頭国なのである。

 その中国とベトナムの間で政府はともかく、国民感情の反目が起これば、「西側諸国」つまり西側民主主義陣営に付け入るすきを与える――社会主義体制の崩壊を懸念、あるいは注意を喚起する論文は習近平体制発足後、頻繁に目にされるようになっている。それからすれば、今回のベトナムでの反中デモにはことのほか注意深く対応しなければならない、というわけだ。

 安倍首相は昨年東京でASEAN各国トップを招いた後、先日シンガポールでアジアの防衛問題を話し合うために開かれたシャングリラ会議でも、この機に乗じてアジア諸国取り込みの態度に出た。ASEANに漂う中国への警戒感を考えれば当然の方法だし、また現状では日本にとって非常に正しいやり方だと思う。

 だが、アジア諸国に長期に渡って大量に金銭を湯水のように投入する中国に対し、日本がどこまで対抗できるのか、どんなふうにアジア諸国を引き付けるのか、政府はともかく日本国内ではまだまだ理解や分析どころか議論も足りていない――感情的で一方的、客観的事情分析に欠けたニュース報道が横行する日本のアジア観に対してそんな不安がつきまとうのも事実である。

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