こうした知識を循環させ新たな価値を生み出す「開かれた制度」への移行が、次世代に向けてますます加速するようであれば、状況の変化を起こす土壌となる。
この流れを受け、縦割りを超えた省庁横断的な制度設計によって、創作活動の奨励と公衆衛生の促進という目標を両立させ、先発企業・後発企業・患者の三者がそれぞれ適切に利益を享受ないし確保できる「三方よし」の環境を実現できないか。筆者はこの実現を願い、日々の研究に取り組んでいる。
知的財産制度の未来は、制度設計の巧拙にとどまらず、社会全体がどのような理想像を描くかという価値判断に委ねられている。
AI×バイオの時代における知的財産制度を問い直すことは、単なる権利保護の再強化ではなく、権利の創出と活用のバランスを根本から見直す営みに他ならない。
知的財産制度を、単なる産業政策のツールではなく、未来志向の社会的インフラとして再設計できるか──この問いこそが、AI×バイオ時代において私たちが突きつけられている本質的課題となっている。
清水紀子(Noriko Shimizu)
東京大学薬学部卒、同大学院薬学系研究科修士課程修了、北海道大学大学院法学研究科博士後期課程修了(博士(法学))。2025年4月より、札幌医科大学医学部先端医療知財学講座講師。特許法、特に医薬品発明の保護をめぐる課題を研究する。特許庁勤務の経験も備え、弁理士登録済み。「医薬品開発促進のための特許制度と薬事制度の役割分担」にて、サントリー文化財団2019年度「若手研究者のためのチャレンジ研究助成」に採択。
『AI時代の知的財産・イノベーション』
早稲田大学次世代ロボット研究機構AIロボット研究所
知的財産・イノベーション研究会/森 康晃[編]
日科技連出版社[刊]
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