コラム

ニューハンプシャー州の民主党大会で見えたポジティブな未来

2019年09月10日(火)20時15分

前回2016年の予備選の教訓から民主党の多くの候補者が指名候補への投票を呼び掛けている Gretchen Erti-REUTERS

<クリントン支持者とサンダース支持者の間で深い分断を残した前回予備選の教訓をふまえて、今民主党はその分断の傷を癒そうと動いている>

9月7日土曜日、大統領選のバトルグラウンド(決戦州)として知られるニューハンプシャー州マンチェスター市で州の民主党大会が行われ、19人の大統領候補がスピーチした。約1万人を収容できるSNHUアリーナはニューハンプシャー州で最も大きな会場なので政治イベントに使われることが多い。1カ月前にトランプ大統領がここでラリーを開いたときには、(トランプ陣営の公式発表では)会場内に1万1500人、会場に入れなかった者が約5000人いた。

土曜日の民主党大会は、根本的には州の民主党員を対象にしたものなので、一般向けに宣伝や通知はしていない。フロアに降りられるのは有権者の代理人として党大会で投票する役割の代議員(デリゲート)だけであり、それ以外のチケットは1カ月前には販売を停止していた。したがって満席ではなかったが、集まったのは各大統領候補の支援者や長年の民主党員など、一般有権者よりも現在の選挙や政治に関心がある人たちだ。彼らの意見は一般よりもやや極端になる傾向があるが、インフルエンサーなのでその言動は今後の全米の動きを予測するヒントになる。

午前7時会場で9時に開始した党大会では、19人の候補のスピーチのほかにも、民主党全国大会の議長や、州選出の上院議員、州議員などがスピーチを行う。合計38人のスピーチをすべて聞くにはマラソンに近い持久力が必要になる。終了予定は午後4時だが、遅れる可能性は高く、最後まで全員が残ることはないだろう。

そこで、候補のスピーチの順番が重要なファクターになる。この大会では先に主要候補を名字のアルファベット順で紹介することにしたようだが、基準に疑問を抱くこともあった。例えば、アンドリュー・ヤングが大会の最後のスピーカーだったことだ。アルファベットでは19人中最後なのだが、大会前の全米の世論調査では6位であり、次回の民主党ディベートの出場資格も得ている。有力候補のひとりであるヤングが、世論調査での支持が0%の候補や、トランプ大統領の弾劾を訴えて立候補したばかりの大富豪トム・ステイヤーの後というのは、不公平な扱いだった。ヤングが壇上に立ったときには、疲れ切った参加者の大部分がすでに立ち去っており、彼を知らない有権者が知る機会を奪われた残念なプログラムだった。

とは言え、この党大会は、約4年前に同じ会場で行われたイベントと比べ、民主党の将来を楽観視できる要素がかなりあった。

2015~16年にかけて、バーニー・サンダースの支持者を中心とした左派は、民主党首脳部やヒラリー・クリントンに対して不信感や敵意を募らせていた。2016年初頭のイベントでは、クリントンを支持する民主党全国大会委員長(女性)やニューハンプシャー州選出の上院議員(女性)に対してサンダース支持者の特に若い男性らが「ビッチ(メス犬)」といったヤジを飛ばし、スピーチが聞こえなくなる事態が発生した。彼らは民主党の首脳陣のスピーチを妨害した挙げ句、サンダース候補のスピーチが終わるやいなや、クリントンのスピーチは聞かずに会場を去った。

2016年の予備選ではクリントン勝利が明らかになった後でもサンダースが敗北を認めず、党大会の2週間前になってようやく支持を表明した。そして、本選では、サンダース支持者の10人に1人がトランプに票を投じた。特に、トランプの勝利を決定したのがミシガン、ウィスコンシン、ペンシルべニア州での僅差の勝利だった。これらのサンダース支持者が投票場に足を運んでいなければ、明らかにクリントンの勝利だったのだ。

プロフィール

渡辺由佳里

Yukari Watanabe <Twitter Address https://twitter.com/YukariWatanabe
アメリカ・ボストン在住のエッセイスト、翻訳家。兵庫県生まれ。外資系企業勤務などを経て95年にアメリカに移住。2001年に小説『ノーティアーズ』(新潮社)で小説新潮長篇新人賞受賞。近著に『ベストセラーで読み解く現代アメリカ』(亜紀書房)、『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』(晶文社)などがある。翻訳には、レベッカ・ソルニット『それを、真の名で呼ぶならば』(岩波書店)、『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』(日経BP社、日経ビジネス人文庫)、マリア・V スナイダー『毒見師イレーナ』(ハーパーコリンズ)がある。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

アングル:欧州で若者向け住宅購入の新ビジネス、価格

ワールド

焦点:道半ばの中国「社会保険改革」、企業にも個人に

ワールド

昨年の関税合意実施を米と確認、日本が不利にならない

ビジネス

米国株式市場=続落、ダウ453ドル安 原油高と雇用
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプのイラン攻撃
特集:トランプのイラン攻撃
2026年3月10日号(3/ 3発売)

核開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。イランとアメリカの本格戦争は始まるのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国はイランを見捨てた? イランの「同盟国」だったはずの中国が、不気味なまでに静かな理由
  • 2
    日本の保護者は自分と同じ「大卒」の教員に敬意を示さない
  • 3
    10歳少女がライオンに激しく襲われる...中国の動物園で撮影された「恐怖の瞬間」映像にネット震撼
  • 4
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 5
    「みんな一斉に手を挙げて...」中国の航空会社のフラ…
  • 6
    「巨大な水柱に飲み込まれる...」米海軍がインド洋で…
  • 7
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 8
    【長期戦はイラン有利】米側の体制転覆シナリオに暗…
  • 9
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 10
    【WBC】侍ジャパン、大谷翔平人気が引き起こした球場…
  • 1
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 2
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズった理由
  • 3
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 4
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで…
  • 5
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 6
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 7
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 8
    少子化に悩む韓国で出生率回復...昨年過去最大の伸び…
  • 9
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 10
    「若い連中は私を知らない」...大ヒット映画音楽の作…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 9
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story