最新記事
ドナルド・トランプ

【超解説対談】イーロン・マスクがトランプ政権で課せられた本当のミッションとは? 日本政府のトランプとのパイプ役は?(小谷哲男教授)

Decoding Trump 2.0

2025年2月19日(水)19時22分
マスク

Shutterstock AI

<「日本で最もトランプ政権に詳しい教授」が読み解くトランプ政権再重要のキーパーソンと石・トラ関係>

ドナルド・トランプは2度目の大統領就任から1カ月足らずの間に、「ガザ所有」やウクライナの頭越しの米ロ会談の提唱など、世界が驚く外交政策を次々と打ち出している。2月7日の日米首脳会談は成功だったと言われるが、本当に楽観できるのか。前編に続き、米政治とトランプ政権に詳しい明海大学の小谷哲男教授に聞いた(聞き手は本誌編集長の長岡義博、1月31日収録)。

対談動画はこちら

――第2次トランプ政権のキーパーソンは? ワイルズ首席補佐官がそうだという意見もかなりあるが。

首席補佐官は政権運営全体で当然重要な役割を果たします。ただし、政策を直接やるわけではない。

政策面のキーパーソンは副大統領のJ・D・バンス氏だと思います。彼は閣僚人事で指名されたわけではなく、大統領選でパートナーになった。トランプ氏のアメリカ第一主義、あるいはMAGAと呼ばれる思想を言語化し、理論化したのがバンス氏です。だからこそトランプ氏は彼を副大統領に選んだのです。

言ってみれば、自分の後継者に指名したということ。全ての政策に関してバンス氏の発言力、影響力というのは強まっていく。やはり彼がキーパーソンだと思います。

――一般的にアメリカの副大統領は大統領がいなくなったときの「代替」でしかなく、お飾りという見方も強いが、バンス氏はそうではないと。

トランプ氏はある意味、新しい副大統領像を作っていくことになるかもしれない。それはトランプ氏がバンス氏に依存しているというところから生まれています。

――最初副大統領候補を選ぶとき、トランプ氏本人はバンス氏に乗り気でなかったとも聞いたが。

トランプ氏もバンス氏を選ぶことに決して後ろ向きだったわけではない。元々バンス氏はトランプ氏のことを批判していた。けれども21年の2月にバンス氏はトランプ氏の自宅マール・ア・ラーゴを訪れ、謝罪しているんです。仲を取り持ったのがトランプ氏の長男ドン・ジュニア氏でした。

ドン・ジュニア氏としてはバンス氏の知性、そしてシリコンバレーとの関係をうまく取り込んでいきたかった。トランプ氏のやろうとしていることの理論化をバンス氏に求めた。元々はドン・ジュニア氏がくっつけたんですが、それ以降バンス氏とトランプ氏の関係も非常に深まった。28年の大統領選挙では、バンス氏がトランプ氏の後継者として出ると思います。

――私も彼が書いた『ヒルビリー・エレジー』を興味深く読んだ。彼の人生はまさにアメリカのトランプ支持者を体現するような人生だ。

トランプ氏よりもトランプ的な政治家ですので、彼がMAGAの流れを引き継いでいくことになると思います。

――政府効率化省のリーダーに抜擢されたイーロン・マスク氏が果たす役割について。

政府効率化省は最初どういうものになるのかよくわからなかった。発表されたときは、政府の外から助言を行うということだった。大統領令を見る限りは、今存在している委員会を政府効率化省に改組するという形になりそうなので、政府機関にはなるようです。

政府効率化省がやることは2つ。無駄な予算を削減するということと、無駄な規制を撤廃していくとなんですが、本当の狙いはDS、ディープステートの解体です。「闇の世界」を解体する。

民主党寄りの政府のキャリアスタッフたちを減らしていく。彼らこそが無駄遣いをし、必要のない規制をしている。私腹を肥やしているのを止めさせていくことによって、「闇の政府」を解体する。それをマスク氏の民間の知見を生かしてやってもらう。

――「ディープステート」の代表である司法省はどうなる?

もう既にトランプ氏の訴追に関わった高官たちはクビになっています。今後もそういう形で進めていく。これは全ての省庁にまたがっていて、環境保護や地球温暖化対策をやっていた部署は真っ先に切られている。

――司法省あるいはFBIも弱体化していく?

弱体化というよりトランプ氏の息のかかった人たちを送り込んでいく。魔女狩りをされたと思っていますから、復讐をする。

――マスク氏はテスラでEVをつくっていた人、またそのEVを中国でたくさん売っている人だ。必ずしもトランプ大統領の政策と一致する人ではない。マスク氏をそばに置いている理由は。

財力です。トランプ氏に反対する共和党議員に、反対したら次の選挙でマスクの財力を使って対立候補を送り込むぞという脅しをかけた。
国防長官に承認されたヘグセス氏は当初、承認は無理だと言われていたんですが、結局共和党議員から反対はなくなりました。これはまさにマスク氏の財力をちらつかせた脅しが効いて、共和党議員がひっくり返った。

もう1つ、マスク氏は中国との関係で役割がある。

トランプ政権にとって中国こそが最大の敵なので、今後これ封じ込め、あるいはディールをして有利な立場を取っていくが、マスク氏は中国とも関係がいい。中国国内ではマスク氏を大使にしてほしいという声が上がるくらい。

トランプ氏はマスク氏を置いておくことで中国を油断させる。油断させておいて、ディールで自分が有利な立場に立つ。「グッド・コップ、バッド・コップ」の良い警官役をやらしておいて、実際は閣内の対中強硬派で中国を封じ込める。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 2
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 3
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されずに「信頼できない人」を見抜く方法
  • 4
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 5
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 6
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 7
    逃げて!背後に写り込む「捕食者の目」...可愛いウサ…
  • 8
    「結婚は人生の終着点」...欧米にも広がる非婚化の波…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 7
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 8
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 9
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 10
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中