「患者の命より自分の利益...」揺れる韓国医療、研修医ストライキが招いた悲劇の実態

KOREAN DOCTORS ON STRIKE

2024年11月7日(木)16時20分
ウヌ・リー(ライター)
医学部増員計画に抗議する医師たち(ソウル、今年2月) AP/AFLO

医学部増員計画に抗議する医師たち(ソウル、今年2月) AP/AFLO

<政府の医学部定員増に抗議する研修医のストが長期化。医療現場の混乱は拡大し、患者は命の危険にさらされている>

韓国で2月に始まった病院勤務医のストが終わらない。尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の支持率低下も止まらない。実を言うと、尹と医者の間には長年にわたる確執がある。

2000年以前の韓国では、医者が処方薬も売っていた。薬を処方すればするほど儲かるから、どうしても薬剤の過剰投与につながる。患者の金銭的負担は増え、副作用のリスクも高まる。現に1990年代の韓国では総医療費の約3分の1が薬代だった。


この弊害を正すため、00年に医薬分業を義務付ける法案が採択された。医師は処方箋を出すだけで、調剤と販売は薬剤師が担当する仕組みだ。しかし、これを既得権の侵害とみた医師側は猛反発し、ストライキに突入して病院を閉鎖した。

そこで「医療法」が発動された。政府が公衆衛生上の危機と認定した場合に、医師や医療機関に診療行為の継続を義務付ける法律だ。結果、ストを扇動したとして2人の医師が起訴されて有罪となり、医師免許を剝奪された。このときの首席検事が、誰あろう尹だった。

新型コロナの感染が拡大した20年にも慢性的な医師不足が問題となり、当時の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は大学医学部の定員を増やし、学費無料の公立医科大学を設立して卒業生に地域医療への従事を義務付ける構想を打ち出した。しかし、これにも現役の医師たちが反対してストに突入。医療現場が麻痺したため、文政権は撤回を余儀なくされた。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:非常口付近が安全か、座席位置に関心高まる

ワールド

イラン、イスラエルに報復攻撃 数百発のミサイル発射

ワールド

イラン攻撃「米国に事前に通知」、ネタニヤフ首相が表

ビジネス

米ミシガン大消費者信頼感、6月速報値60.5に大幅
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生きる力」が生んだ「現代医学の奇跡」とは?
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    ゴミ、糞便、病原菌、死体、犯罪組織...米政権の「密…
  • 5
    【動画あり】242人を乗せたエア・インディア機が離陸…
  • 6
    メーガン妃がリリベット王女との「2ショット写真」を…
  • 7
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未…
  • 8
    「結婚は人生の終着点」...欧米にも広がる非婚化の波…
  • 9
    先進国なのに「出生率2.84」の衝撃...イスラエルだけ…
  • 10
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラドールに涙
  • 3
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 4
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタ…
  • 5
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 6
    ひとりで浴槽に...雷を怖れたハスキーが選んだ「安全…
  • 7
    猫に育てられたピットブルが「完全に猫化」...ネット…
  • 8
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 9
    プールサイドで食事中の女性の背後...忍び寄る「恐ろ…
  • 10
    救いがたいほど「時代錯誤」なロマンス映画...フロー…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 9
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中