金正恩独裁体制の崩壊「5つのシナリオ」を検証する

ON THE BRINK

2024年3月1日(金)11時09分
エリー・クック(本誌安全保障・防衛担当)

■シナリオ⑤:金正恩の死

金は現在40歳とみられ、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領や、ジョー・バイデン米大統領といった主要国首脳よりもずっと若い。

金がなんらかの理由で死去すれば、北朝鮮は大きく不安定化する恐れがある。

かねてから金は、国営メディアに全く登場しない時期があったり、体重の明らかな(そして劇的な)増減が観察されたりと、健康不安説(痛風、糖尿病、新型コロナ感染など)が根強くささやかれてきたが、いずれも臆測の域を出なかった。

もしも今、金が死去した場合、現体制がどうなるのかという不透明性を払拭するほどの明確な後継者は存在しない。

「(北朝鮮にとって)新しい、重大な岐路になるのは間違いない」と、ヨは語る。

北朝鮮において、金一族はまさに王族のように突出した存在で、世代間の権力の継承はかなりスムーズに行われてきた。

「北朝鮮には強力な世襲制が存在する」と、SIアナリティクスのリーは語る。

ただ、現体制は「男系の一族支配体制であるのに、現時点では明らかな男性後継者がいない」と、アムは指摘する。

金の実妹で、アメリカを厳しく非難することで知られる金与正(キム・ヨジョン)を後継者と見なす向きもある。

実際、与正は近年、公的な場で重要な役割を担う場合もあり、事実上のナンバー2との呼び声も高い。

ただ、与正は「金一族のメンバーで、行政や外交の経験があるが、現体制の強力な男性優位を克服できるかどうかは分からない」と、アムは語る。

韓国の情報機関である国家情報院は、金の娘で現在10~12歳とみられる金主愛(キム・ジュエ)が帝王学の教育を受けているとし、「現時点では(主愛が)後継者になる可能性が最も高そうだ」との見方を今年初めに示している。

ただし、「金正恩はまだ若く、大きな健康問題もなく、変動要因も多い」と慎重な姿勢も崩していない。

金には3人の子供がいるとされるが、公の場に出てきているのは主愛だけだ。

後継者が主愛であれ、与正であれ、現体制にほぼ変化はないだろうと専門家はみる。「金の死去のタイミングは重要ではないのかもしれない。

与正は既にリーダーになる準備ができている。むしろ問題は、男性だらけの政府を女性が指揮できるかどうかだ」と、アムは言う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

スペインの極右政党ボックス、欧州議会選へ向け大規模

ワールド

イランのライシ大統領と外相が死亡と当局者、ヘリ墜落

ビジネス

欧州当局、モデルナのコロナワクチン特許有効と判断 

ワールド

頼清徳氏、台湾新総統に就任 中国メディアは「挑発的
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『…

  • 5

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 6

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの…

  • 7

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 8

    「すごく恥ずかしい...」オリヴィア・ロドリゴ、ライ…

  • 9

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 10

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中