金正恩独裁体制の崩壊「5つのシナリオ」を検証する

ON THE BRINK

2024年3月1日(金)11時09分
エリー・クック(本誌安全保障・防衛担当)

中国の姿勢が想定外に変われば、北朝鮮は深刻な打撃を被るとも、スナイダーは指摘する。

しかし、中国とロシアは北朝鮮の体制を存続させようとするだろうという点で、専門家の見方は一致している。

それでも、なんらかの理由により、中国とロシアが見限れば、金体制は少なくとも現在の形では存続できなくなるだろう。

「体制が瓦解することになる」と、ヨは言う。

■シナリオ④:自由市場

体制に対する北朝鮮内部からの脅威は、金が中国型の経済改革に乗り出した場合、現実味が増す可能性がある。

中央計画経済の下での厳しい統制を放棄して、市場メカニズムを受け入れる場合だ。

確かに北朝鮮は、自らの政策によって経済難や飢餓を引き起こし、国内に不満分子が生まれる種をまいてきた。

しかし「安定と一族支配を維持するために、中国型の経済改革を実施するのは極めてリスクが高い」と、スナイダーは指摘する。

中国の場合、大躍進などの破滅的な経済政策を取った毛沢東の死後、鄧小平が改革開放政策を進めた結果、今や世界第2位の規模を誇る経済大国へと成長した。

しかし外国から投資を呼び込むためには、投資利益が国に横取りされずに、「きちんと外国人投資家に戻ることを保証する一定の改革」が必要だと、ヨは指摘する。

また、外国との交流が拡大すれば、人々が国の検閲を受けていない情報に触れる機会も増えるだろう。

そうなれば、現体制が近年唱えてきた「自力更生・自給自足」という目標にダメージを与えかねない。

実際、金がこのアプローチを試す気配はほとんどない。父親の金正日(キム・ジョンイル)と同じように、限定的な改革に恐る恐る歩み寄った時期もあったが、すぐに手を引いてしまった。

叔父の張は、中国の経済界に太い人脈があり、そのことも金にとっては不愉快だったと、ヨは指摘する。

こうした人脈と、それと共に入ってくる投資は、「現体制が人々に与えることができない物事をもたらして、いずれ現体制を揺さぶる恐れがあった」と、ヨは説明する。

コロナ禍のピーク以降、金は新しい経済モデルをかじってみるよりも、計画経済の強化と、権力基盤の強化に注力するようになった。

「経済改革が行われる可能性や、市場システムを通じて変化が起こる可能性は、7~8年前のほうがずっと高かった」と、ヨは言う。

「しかし金が韓国の文化コンテンツを取り締まる法律を厳格化し、さらに経済の管理を強化しているところを見ると、少なくとも当面は、その方面での進展は期待できない」

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米セールスフォース、1000人未満の人員削減実施=

ワールド

ウィリアム英王子がサウジ公式訪問、ムハンマド皇太子

ワールド

マクロスコープ:さまよう「中流票」、選挙結果の振れ

ワールド

中国が香港安全保障白書、本土政府の「根本的な責任」
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:習近平独裁の未来
特集:習近平独裁の未来
2026年2月17日号(2/10発売)

軍ナンバー2の粛清は強権体制の揺らぎか、「スマート独裁」の強化の始まりか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 2
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...周囲を気にしない「迷惑行為」が撮影される
  • 3
    【銘柄】「ソニーグループ」の株価が上がらない...業績が良くても人気が伸びないエンタメ株の事情とは
  • 4
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 5
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 6
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日…
  • 7
    変わる「JBIC」...2つの「欧州ファンド」で、日本の…
  • 8
    「二度と見せるな」と大炎上...女性の「密着レギンス…
  • 9
    衆院選で吹き荒れた「サナエ旋風」を海外有識者たち…
  • 10
    韓国映画『しあわせな選択』 ニューズウィーク日本…
  • 1
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 2
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 3
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予防のために、絶対にしてはいけないこととは?
  • 4
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 5
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染…
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 8
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 9
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日…
  • 10
    エヌビディア「一強時代」がついに終焉?割って入っ…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 4
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 7
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 8
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 10
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中