最新記事
東南アジア

ミャンマー軍政が非常事態宣言を半年延長、総選挙実施も延期へ 一方でスー・チーに一部恩赦も発表

2023年8月1日(火)19時30分
大塚智彦
ミャンマーのアウン・サン・スー・チー氏

スー・チーの一部刑期に恩赦が出されたが…… Ann Wang / REUTERS

<硬軟両方の政策は何を見据えたものか?>

実質的な内戦状態が続くミャンマーでミン・アウン・フライン国軍司令官率いる軍政は7月31日、非常事態宣言を半年延長する決定を下した。国内治安状況が軍政の予想を裏切って一向に回復せず不安定な状況が続いていることが原因だ。

非常事態宣言の延長に伴い、軍政が公約していた民政移管を目指すとした「民主的な総選挙」の実施も自動的に延期となり、早くても2024年2月より後となることが確定した。

 
 
 
 

憲法では非常事態宣言は1年間でその後半年延長を2回まで認めているが、2021年2月のクーデター直後から1年間、さらにその後6カ月間をすでに3回延長しており、軍政は治安状況に鑑みて憲法の規定以上の延長をやむを得ない措置として4度目となる延長に踏み切ったものだ。

軍政は31日、首都ネピドーで軍政幹部が出席した「国防治安評議会」を開催して非常事態の延長問題を協議。ミン・アウン・フライン国軍司令官の「武装した暴力が続いている。選挙は時期尚早で用意周到に準備する必要がある。当面の間我々が責任を負わなければならない」との発言を受けて6カ月の延長を容認するとの結論に達した。

非常事態宣言の下ではミン・アウン・フライン国軍司令官が司法・立法・行政の三権を掌握することになるため、軍による強権弾圧の専制政治が続くことになる。

軍政による姿勢変化の意図

クーデター当日に身柄を拘束され、その後19件のいわれなき容疑で訴追、2022年12月に合計で禁固33年の判決を受けネピドー近郊の刑務所施設に収監されていた民主化運動指導者で民主政府を率いていたアウン・サン・スー・チー氏。軍政は彼女を非常事態宣言の延長を前にして7月には移送する措置を取った。

スー・チー氏はそれまでの刑務所内の特設施設から刑務所外の政府関係者の民家に移されたもので、実質的な軟禁状態とはいえスー・チー氏の生活環境は改善されたとみられている。

加えて7月9日にはネピドーを訪問したタイのドーン外相とスー・チー氏の面会を軍政は特別に許可し、身柄拘束後に初めてスー・チー氏と外国閣僚の直接の面会が実現したのだった。

さらに8月1日にはスー・チー氏の刑期の一部を恩赦する決定を行ったことを軍政は発表した。具体的な恩赦の内容は明らかにされなかったが「仏教の祭日に合わせて人道的観点から決めた」としている。

仏教の祭日がいつを示すのかも不明だが、最近建立した大仏の完成に合わせたものとの見方も出ている。また、一部メディアの報道によると、19件の訴追容疑のうち5件が恩赦対象とされ、33年の刑期が27年へと6年短縮されるという。

こうした軍の「柔軟化」ともみられる姿勢の変化には、念頭にあった非常事態宣言のさらなる延長による国際社会や民主化勢力の反発を抑え込む狙いもあったとみられている。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結

ワールド

英、中東に戦闘機を移動 地域の安全保障支援へ=スタ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 2
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 3
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生きる力」が生んだ「現代医学の奇跡」とは?
  • 4
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 5
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 6
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 7
    逃げて!背後に写り込む「捕食者の目」...可愛いウサ…
  • 8
    「結婚は人生の終着点」...欧米にも広がる非婚化の波…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    メーガン妃の「下品なダンス」炎上で「王室イメージ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 7
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 8
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 9
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中