国家転覆を狙う「加速主義者」の標的は「電力インフラ」──未解決事件が相次ぐアメリカ

PROTECTING THE GRID

2023年2月16日(木)15時45分
トム・オコナー(米国版シニアライター)、ナビード・ジャマリ(米国版記者)
電力網

JONATHAN DAVIDSON/GETTY IMAGES

<大規模停電を引き起こす極右の攻撃が市民生活を大混乱に陥れ、多くの人命を奪う悪夢。SF映画ではなく、すでに現実に>

私たちは普段、電力網のことなど考えもしないが、いったん止まれば大変なことになる。もっとも、たいがいは不便に耐えれば済む程度。明かりが消え、インターネットが使えず、スマートフォンを充電できない。

だがそれが何日、何週間、何カ月も続いたらどうか。しかも近隣一帯や郡レベルにとどまらず、国全体のかなりの部分に及んだら?

不便どころの騒ぎではなくなると専門家は言う。飲み水もない、車の給油もできない、家の暖房もなし。給与の引き出しもできず、クレジットカードも使えず、救急車も呼べない。

輸送トラックも給油できなくなるから、食料や医薬品など必需品も不足する。そうなれば日々の活動はほぼ全面的にストップし、何百万人もの犠牲者が出るだろう。

SFスリラーの筋書き? いや、現実の話だ。アメリカで長期にわたる大規模停電が起きる確率はかつてなく高まっており、近い将来に低下する兆しは見えないと、セキュリティーの専門家は警告している。

米政府監査院(GAO)によると、2022年1~8月にアメリカの電力網が攻撃される事件はここ10年余りで最多の107件も発生した。

12月3日にはノースカロライナ州ムーア郡の2カ所の変電所に何者かが侵入し銃で設備を破壊、一帯の停電で4万世帯以上が寒さに震えながら暗い夜を過ごした。その後も同様の事件が相次ぎ、ワシントン州ピアース郡では4カ所の変電所の設備が破壊され、1万4000人前後が停電下でクリスマスを迎えた。

こうした攻撃の多くは国内の過激派の犯行とみられている。ここ数カ月、変圧器や送電線を標的にしたテロが過激派の間で話題になっている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米上院議員が戦争権限決議案、トランプ氏のイラン軍事

ビジネス

NTTドコモ、 CARTAHDにTOB 親会社の電

ビジネス

パリ航空ショー、一部イスラエル企業に閉鎖命令 イス

ワールド

アングル:欧州で増加する学校の銃乱射事件、「米国特
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 9
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 10
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中