最新記事

経済危機

インフレが世界をぶっこわす スリランカの後に続くのはどこか

Sri Lanka And Argentina Send A Stark Warning To The World Over Inflation

2022年7月13日(水)11時45分
パノス・ムルデュクータス

スリランカの大統領公邸を占拠した群衆。ゴタバヤ・ラジャパクサ大統領は逃亡した(7月9日、コロンボ) Dinuka Liyanawatte-REUTERS

<危ないのは対外債務が多く経常収支が赤字の国。先進国も例外ではない>

スリランカとアルゼンチンでは、物価上昇(インフレ)が経済社会に牙を剥き始めている。品不足と生活コストの高騰を受けて、スリランカでは大規模な抗議デモが暴動に発展、ついには大統領公邸を群衆が占拠した。これは「インフレ抑制に失敗した国々の運命」を示す、国際社会への厳しい警告だ。

インフレの再燃は世界的な現象だ、きっかけは、新型コロナ対策によるサプライチェーンの混乱や労働力不足。それがさまざまなモノやサービスのコストを押し上げ、値上げという形で消費者に転嫁され、さらにそこに金融緩和が重なった。

それから間もなくロシアがウクライナに侵攻し、アメリカとその同盟諸国がロシアに対して前例のない経済制裁を発動。これによって、食品とエネルギーにさらなる物価上昇圧力が生じた。ウクライナは世界の穀倉地帯、ロシアは穀物とエネルギーの主要な供給国だからだ。

これまでのところ、ほぼ全ての国がインフレの悪い側面を目の当たりにしている。家計がひっ迫し、万が一に備えて貯蓄しておいたお金の価値は目減りする一方だ。

共通点は「巨額の債務」

スリランカのような一部の国では、インフレがさらに深刻な事態を招いている。大規模な抗議デモや暴動が発生し、それが政治と社会に混乱をもたらしているのだ。スリランカでは7月9日に、国内各地から集まった大勢のデモ隊が大統領公邸を占拠し、大統領が辞任に追い込まれた。スリランカの物価上昇率は年率換算で54%。食品価格の上昇率は80%に達しており、一部の生活必需品については政府による配給制が導入されている。

アルゼンチンでも生活費の高騰をめぐる大規模な抗議デモが起き、大統領が国民に団結を呼びかけた。同国のインフレ率は年率換算で61%に達しており、年内には70%に到達する見通しだ。店によって商品の価格が大きく異なるため、誰も相場が分からない状態になっている。

なぜスリランカとアルゼンチンは、インフレの醜い側面が露呈しているのか。両国の共通点は何なのか。その答えは「巨額の債務」だ。2021年の債務総額は、スリランカが対GDP比で101%、アルゼンチンが80%に上った。この債務のかなりの部分がドル建てのため、過去2年間のドル高により返済がますます困難になっており、必需品の輸入にまわせる資金が残っていない。スリランカでは、経常収支の急速な悪化に加えて外貨準備も大幅に減少しており、アルゼンチンより遥かに深刻な状況だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米雇用、11月予想上回る+6.4万人・失業率4.6

ビジネス

ホンダがAstemoを子会社化、1523億円で日立

ビジネス

独ZEW景気期待指数、12月は45.8に上昇 予想

ワールド

トランプ氏がBBC提訴、議会襲撃前の演説編集巡り巨
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を変えた校長は「教員免許なし」県庁職員
  • 4
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 5
    「住民が消えた...」LA国際空港に隠された「幽霊都市…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    FRBパウエル議長が格差拡大に警鐘..米国で鮮明になる…
  • 8
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    「日本中が人手不足」のウソ...産業界が人口減少を乗…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中