最新記事

航空戦

ロシア空軍が弱いのは何もかも時代遅れだったから

Search WORLD Exclusive: Russia's Air War in Ukraine is a Total Failure, New Data Show

2022年5月26日(木)19時33分
ウィリアム・アーキン(元米陸軍情報分析官)

この場合の「作戦」とは、ウクライナの防空システムを破壊するための組織的な攻撃のことだ。早期警戒システムと通信網を徹底的にたたけば、ウクライナは、ロシア軍機がいつどの方角から飛来するかを察知することも、地対空ミサイルを飛ばすこともできなくなる。

米軍は1991年の湾岸戦争で、こうした作戦のための黄金律を打ち立てたと、ストリンガーは言う。これは「何度も実行された戦術的プロセス」で、どこで戦う場合も欠かせない、という。

イラク、コソボ、アフガニスタンで米軍の航空戦を指揮した元米空軍の上級将校によると、その黄金律とは、「敵のレーダーを破壊し、通信を妨害し、戦闘機を撃墜し、飛行場を使用不能にし、SAM(地対空ミサイル)を無効化すること」だ。

「まずは制空権を確保すること。それが絶対条件だ。敵の空爆から米兵を守るためにも必要だが、2度のイラク戦争で米軍が実証したように、敵を弱体化させるためにも不可欠だ」

イラク戦争では「米陸軍の地上部隊が敵を追い詰めたが、それを可能にしたのは空軍の作戦だ」と、この将校は作戦上の話をするため匿名を条件に語った。

「貧者が空を制す」事態

ロシアが制空権の確保をあきらめたことは、ウクライナ戦争の顕著な特徴だが、西側の観測筋はその理由を解しかねている。侵攻開始から48時間は、ロシア軍もウクライナの防空システムを猛攻したが、それで終わり。その後は米軍が必須条件と見なす制空権の確保をあっさり断念してしまった。

飛行場や防空拠点を攻撃したのは最初の2日だけで、これらの施設を徹底的にたたこうという考えはなかったようだ。ウクライナの小規模な飛行部隊はおおむね戦闘不能になったが、ロシアの攻撃が中途半端に終わったおかげで、すぐさま防空体制を立て直せた。特に携行型の地対空ミサイルは広域の防空に威力を発揮し、ストリンガーの言葉を借りれば、「貧者が空を制す」状況となった。

ウクライナの地対空ミサイルを恐れて、ロシアは爆撃機の出撃回数を極端に減らした。本誌が検証した米情報機関のデータによると、ロシア軍は出撃可能な軍用機のわずか1割強しか使っていない。インフラ施設などの「戦略的なターゲット」に向けた長距離のミサイル攻撃は継続しているが、ウクライナの領空に戦闘機や爆撃機を飛ばすことはできる限り避け、空と海と陸からの攻撃を組み合わせる形、つまり地対地ミサイルや、艦船と潜水艦からのミサイル発射で空爆を補完する形態をとっている。

ということは、ロシアも攻撃方法を調整したのだろうか。自軍の損害を極力減らして、ターゲットを破壊する方法を編み出したのか。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

岸田首相、「グローバルサウスと連携」 外遊の成果強

ビジネス

アングル:閑古鳥鳴く香港の商店、観光客減と本土への

ビジネス

アングル:中国減速、高級大手は内製化 岐路に立つイ

ワールド

米、原発燃料で「脱ロシア依存」 国内生産体制整備へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元カレ「超スター歌手」に激似で「もしや父親は...」と話題に

  • 4

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表.…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 9

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 10

    マフィアに狙われたオランダ王女が「スペイン極秘留…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中