最新記事

資源

中国が南シナ海全域で、海底から大量の「砂」をかき集めまくっている理由

THE GREAT SAND GRAB

2022年3月18日(金)18時31分
クリスティーナ・ルー(フォーリン・ポリシー誌)
中国の浚渫船

中国の浚渫船 Gabriel Crossley-Reuters

<砂は高層ビルからスマホの画面まで、あらゆる物に使われる重要な資源だが、乱採取のせいでとてつもない代償がもたらされている>

台湾沖に浮かぶ大型の中国船。その目的は、軍事的な威嚇行為でも、漁業活動の嫌がらせでもない。海底の砂を吸い上げることだ。

ここだけではない。中国は台湾周辺からフィリピン沿岸まで南シナ海全域に巨大な浚渫(しゅんせつ)船を送り込み、大量の砂を採取して、領有権争いのある海域における土地造成に使ってきた。それは「暴力ではなく、強迫によって目的を遂げる活動」だと、米ブルッキングス研究所のライアン・ハース上級研究員は指摘する。「(中国の)多くの戦術の1つだ」

砂なんて、どこにでもいくらでもあるのに、と思うかもしれない。だが、意外にも目的にかなった砂資源は限られている。その一方で、コンクリートからガラスまで、現代のあらゆる物の製造に砂は不可欠だ。

「人間社会は文字通り砂の上に構築されている」と、国連環境計画(UNEP)地球資源情報データベース(GRID)ジュネーブのディレクターを務めるパスカル・ペドゥジーは語る。「われわれはこの材料に完全に依存している」

依存は多くの代償を伴ってきた。砂の乱採取により、世界中で島が消え、生態系が崩壊し、無慈悲な砂マフィアが登場した。だが、最悪の事態はこれからだ。海岸や河川の砂は陸地を守る役割を果たす。それを大量に採取すれば、気候変動による海面上昇と相まって、沿岸地域の住民は荒天時に大きな危険にさらされるだろう。

多くの国は危機の存在に気付いていない

だが、多くの国は砂の採取活動を把握しておらず、危機が迫っていることに気付いてさえいない。「私たちはある意味で、自分を守ってくれる防波堤をつぶしているのだ」と、『サンド・ストーリーズ』(未邦訳)の著者キラン・ペレイラは言う。

現代も残る古代ローマの神殿パンテオンは、火山灰から抽出した砂を材料にしている。それから2000年近くたった今も、砂は現代文明の基礎を成す。高層ビルも高速道路もスマートフォンのスクリーンさえも、砂を使って作られている。

その需要は、近年爆発的に拡大してきた。砂は、水の次に最も採取されている資源であり、世界の採掘活動の約85%を占める。「この20〜30年で砂の使用量は爆発的に増えた」と、英王立国際問題研究所のオリ・ブラウン研究員は言う。

その需要の多くは中国から生まれる。中国の2011〜13年のセメント使用量は、アメリカの20世紀全体の使用量を上回った。問題は、ひと言に砂と言っても、全ての砂が建設材料に適しているわけではないことだ。塩をたっぷり含んだ海砂や、サラサラの砂漠の砂は生コンクリートに混ぜるのには向いていない。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米フォード、大半の従業員に週4日出勤義務付け 9月

ワールド

独首相、トランプ氏に米の役割強化要請 ウクライナ紛

ビジネス

米5月の新築住宅販売13.7%減、予想下回る 在庫

ワールド

イラン革命防衛隊司令官、イスラエルの攻撃による負傷
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本のCEO
特集:世界が尊敬する日本のCEO
2025年7月 1日号(6/24発売)

不屈のIT投資家、観光ニッポンの牽引役、アパレルの覇者......その哲学と発想と行動力で輝く日本の経営者たち

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係・仕事で後悔しないために
  • 3
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々と撤退へ
  • 4
    人口世界一のインドに迫る少子高齢化の波、学校閉鎖…
  • 5
    「子どもが花嫁にされそうに...」ディズニーランド・…
  • 6
    【クイズ】北大で国内初確認か...世界で最も危険な植…
  • 7
    都議選千代田区選挙区を制した「ユーチューバー」佐…
  • 8
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 9
    細道しか歩かない...10歳ダックスの「こだわり散歩」…
  • 10
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 4
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 7
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり…
  • 8
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 9
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 10
    「アメリカにディズニー旅行」は夢のまた夢?...ディ…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 7
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 8
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中