最新記事

航空業界

緊急着陸したパキスタン航空、機長が再離陸を拒否 「シフトは終わった」

2022年2月2日(水)14時26分
青葉やまと

「シフトは終わった」とパイロットが再離陸を拒否......(写真はイメージ)Svitlana Hulko-iStock

<パイロットの職務放棄として波紋。ただ、機長本人には考えがあったようだ>

パキスタン国際航空が1月16日、サウジアラビアに緊急着陸した。その後再出発する手はずだったが、機長が離陸を拒否。勤務時間はすでに終わったと述べている。

事件が起こったのは、パキスタン国際航空のPK9754便だ。同機はサウジアラビアの首都・リヤドを発ち、パキスタンの首都・イスラマバードを目指していた。しかし荒天のため予定を変更し、サウジ北東部のキング・ファハド国際空港に緊急着陸する。リヤドからわずか400キロほどの距離だ。

天候回復を待って再びイスラマバードへ飛ぶ計画だったが、機長を務めていたパイロットが「シフトは終わった」と宣言。勤務時間がすでに終了したとして、離陸を拒否した。

当時パキスタン航空は乗客に対し、解決まで一時降機するよう求めている。しかし、乗客たちはこれをボイコット。予定外の遅延で苛立っていたところへ、パイロットが操縦を拒んでいるとの報せが火に油を注いだ。現場は騒然となり、最終的には空港の警備スタッフが駆けつけ事態の収集に当たっている。

解決に時間を要したことから、乗客は急きょ手配されたホテルに一時的に収容された。その後イスラマバードに向けて再出発し、同日深夜23時ごろに到着している。

シフト終了宣言が波紋

天候不順などによる代替空港への着陸はダイバートと呼ばれ、さほどめずらしいことではない。しかし、今回は機長が勤務終了を宣言し、フライトに影響を及ぼしたことで波紋を広げた。

パキスタンのエクスプレス・トリビューン紙は、「パキスタン国際航空(PIA)のパイロットが日曜、勤務は終わったと述べ、リャド発イスラマバード便の操縦を拒否した」と報じた。

インドでも大きく報じられている。インド・ニュースメディアのNDTVは、「緊急着陸後、パイロットがそれ以上の飛行を拒否したことで問題となった」「地元メディアの報道によると、この匿名のパイロットは仕事は終わったと主張し、飛行継続を拒否した」として取り上げている。

ニュースはパキスタンとインドを騒がせ、イギリスなどの一部欧米メデイアも取り上げている。ただし、機長としては職場放棄を意図したものではなく、安全上の規定を重視したい意向があったという。

延びていた乗務時間 乗客の安全守りたかった、と機長

問題のフライトは、パキスタンからサウジへの往復する機長の就業分のうち、復路に相当する区間であった。だが、往路でイスラマバードを発つ際、技術トラブルによりすでに出発が遅延していた。パキスタン国際航空の広報は、サウジに到達した時点ですでに機長の規定の就業時間を超えていたと説明している。

その後、再びイスラマバードへ向けて折り返す途上で問題のダイバートとなり、最終的に管制塔から離陸のクリアランスが出るまでに6時間を要した。パキスタン民間航空局の規定は、勤務時間を超過した者が乗務員として活動することを認めず、復帰前に所定の休息時間を与えなければならないと定めている。

本件に詳しいパキスタン国際航空関係者によると、機長は操縦を拒否した際、「私がこうするのは、規則で定められているからだ。機長としての最も重大な責任は、機と乗客を守ることだ」と述べたという。注意力の低下による事故を未然に防ぐねらいがあったとみられる。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

新技術は労働者の痛み伴う、AIは異なる可能性=米S

ワールド

トランプ氏不倫口止め裁判で最終弁論、陪審29日にも

ワールド

多数犠牲のラファ攻撃、イスラエルへの軍事支援に影響

ビジネス

温暖化は米経済に長期打撃、資本ストックや消費押し下
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
2024年6月 4日号(5/28発売)

強硬派・ライシ大統領の突然の死はイスラム神権政治と中東の戦争をこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    中国海軍「ドローン専用空母」が革命的すぎる...ゲームチェンジャーに?

  • 2

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像をウクライナが公開...シャベルで応戦するも避けきれず

  • 3

    メキシコに巨大な「緑の渦」が出現、その正体は?

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    汎用AIが特化型モデルを不要に=サム・アルトマン氏…

  • 6

    プーチンの天然ガス戦略が裏目で売り先が枯渇! 欧…

  • 7

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃…

  • 8

    なぜ「クアッド」はグダグダになってしまったのか?

  • 9

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 10

    ハイマースに次ぐウクライナ軍の強い味方、長射程で…

  • 1

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発」で吹き飛ばされる...ウクライナが動画を公開

  • 2

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像をウクライナが公開...シャベルで応戦するも避けきれず

  • 3

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃がのろけた「結婚の決め手」とは

  • 4

    ウクライナ悲願のF16がロシアの最新鋭機Su57と対決す…

  • 5

    黒海沿岸、ロシアの大規模製油所から「火柱と黒煙」.…

  • 6

    戦うウクライナという盾がなくなれば第三次大戦は目…

  • 7

    能登群発地震、発生トリガーは大雪? 米MITが解析結…

  • 8

    中国海軍「ドローン専用空母」が革命的すぎる...ゲー…

  • 9

    「天国にいちばん近い島」の暗黒史──なぜニューカレ…

  • 10

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された─…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 6

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 7

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 8

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 9

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中