最新記事

BOOKS

日本の覚醒剤の3割は、米軍の横流し?北朝鮮から直行便?──驚きの証言

2021年11月25日(木)12時45分
印南敦史(作家、書評家)
『覚醒剤アンダーグラウンド』

Newsweek Japan

<密輸ではなく、堂々と日本に「輸入」されているらしい。にわかには信じられない話が次々と明かされていく『覚醒剤アンダーグラウンド』>

ベストセラーとなった『売春島――「最後の桃源郷」渡鹿野島ルポ』(彩図社)の著者が、どうやら覚醒剤の世界の裏事情に関心を抱いているらしいと感じたのは、今から数年前のことだ。

だがその時点で想像していたのは、覚醒剤の密売人や使用者に話を聞くというような、ローカルなレベルのものだった。なにしろ"そこから先"のことに近づくことなど、そう簡単にできるはずがないのだから。

ところが、数年を経てお目見えした『覚醒剤アンダーグラウンド――日本の覚醒剤流通の全てを知り尽くした男』(高木瑞穂・著、彩図社)を読んで驚いた。ローカルな売人どころか、著者はその奥の奥まで潜り込んでいたからである。

日本における覚醒剤の蔓延については「第一次覚醒剤禍(1945年~)」「第二次覚醒剤禍(1970年~)」「第三次覚醒剤禍(1995年~)」の3つに大別されるという。

「第一次覚醒剤禍」は、第二次世界大戦中に眠気を除去し集中力を高めるという理由でヒロポンが日本軍に用いられたことが発端だ。その中毒者が終戦直後、混乱した社会情勢の中で濫用したわけである。

それは多少なりとも知られていることではあったが、問題はその先の、すなわち「第二次覚醒剤禍」以降。著者は本書において、これまで明かされることがなかったその部分に切り込んでいるのである。


 韓国から大使館員に密輸させて「第二次覚醒剤禍」を生み出し、後にフィリピンルートを開拓した重要人物は、僕の身近に潜んでいた。「第三次覚醒剤禍」の背景を求めて大物仲卸人、タイルートを知る人物、米軍関係者、税関職員、警察やマトリなどの捜査関係者たちにも接触した。
 それは驚きの連続だった。取材を重ねると、覚醒剤のアンダーグラウンドがベールを脱いだ。(「プロローグ」より)

取材は2016年秋、和久井寅夫(70代、仮名)というヤクザに話を聞くところからスタートする。共通の知人から「かつては関東有力組織の大幹部の金主だった」と紹介されたという人物。いつしか著者は気に入られ、定期的に会っては話を聞くようになっていった。

和久井によれば、麻薬は国家戦略のひとつだった。各情報機関が現地の人間を雇う際、お金の代わりに麻薬を渡したというのだ。麻薬が国際通貨として機能していたわけで、例えば中国の現地人にとっては日本のお金など何の価値もなかったため、貴金属、美術品、麻薬で支払われた。

ところで、もともと日本と韓国にあったヒロポンの製造工場は、戦後には韓国だけになったという。その後、ヒロポンは覚せい剤取締法によって沈静化するが、以後再び、今度は覚醒剤として大流行することになる。驚くべきは、それに関する和久井の発言だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、FRBが金利据え置き

ビジネス

FRB、5会合連続で金利据え置き トランプ氏任命の

ビジネス

情報BOX:パウエル米FRB議長の会見要旨

ワールド

銅に50%関税、トランプ氏が署名 8月1日発効
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目にした「驚きの光景」にSNSでは爆笑と共感の嵐
  • 3
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い」国はどこ?
  • 4
    M8.8の巨大地震、カムチャツカ沖で発生...1952年以来…
  • 5
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 6
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 7
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 8
    「自衛しなさすぎ...」iPhone利用者は「詐欺に引っか…
  • 9
    街中に濁流がなだれ込む...30人以上の死者を出した中…
  • 10
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの習慣で脳が目覚める「セロ活」生活のすすめ
  • 3
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 4
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 5
    航空機パイロットはなぜ乗員乗客を道連れに「無理心…
  • 6
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 7
    「様子がおかしい...」ホテルの窓から見える「不安す…
  • 8
    タイ・カンボジア国境で続く衝突、両国の「軍事力の…
  • 9
    中国企業が米水源地そばの土地を取得...飲料水と国家…
  • 10
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 4
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 5
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 6
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 7
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 10
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中