最新記事

ロシア

ロシア、「ドラゴンをなだめる」対アフガニスタン戦略

CALMING THE DRAGON

2021年9月3日(金)16時15分
ヤナ・パシャエバ(ジャーナリスト)
ロシアのプーチン大統領

ロシアのプーチン大統領はアフガニスタン情勢についてほぼ沈黙を守っているが GRIGORY SYSOEVーSPUTNIKーKREMLINーREUTERS

<他国を尻目にタリバンとの協力関係を誇示する、かつての「敗戦国」ロシアの皮算用>

8月31日のアメリカの完全撤退を前に、欧米諸国の大使館や軍関係者の脱出が続いてきたアフガニスタン。その期限より2週間も早く政権が崩壊し、イスラム主義勢力のタリバンが首都カブール入りして、全権掌握を宣言したため、混乱に拍車が掛かった。

そんななか驚くほど静かなのがロシアだ。100人以上の職員が勤務するカブールのロシア大使館も、「平常運転」が続いている。これはロシアが、タリバンから安全を確約されているからだ。

「われわれの大使館は既にタリバンの警護を受けている」と、ドミトリー・ジルノフ大使は16日に語っている。「タリバンは、ロシアの外交官を髪の毛1本傷つけることはないと約束した」

同日の国連安全保障理事会では、ロシアのバシリー・ネベンジャ国連大使が、「パニックに陥る必要はない」と悠然と語った。翌17日には、ジルノフがタリバンの代表と会い、改めて安全の保証を得た。

なぜ、ロシアはタリバンとこれほどうまくやっている(ように見える)のか。

タリバンはロシアでもテロ組織と認定されており、メディアは非合法組織であることを明記するよう義務付けられている。それなのにジルノフは、タリバンの権力掌握後の振る舞いを称賛した。カブールは今、これまでよりずっと安全に感じられるとさえ言った。

かねてからロシアは、アシュラフ・ガニ前大統領(現金を詰め込んだヘリコプターで逃亡したとされる)をアメリカの傀儡と呼び、タリバンとの協力関係を構築することに強い関心を示してきた。

「この7年間、タリバンとの関係構築に励んできたのは無駄ではなかった」と、ロシア大統領特使を務めるザミール・カブロフは言う。今後のアフガニスタンでは、タリバンが指導的役割を果たすだろうとも語っている。

【関連記事】タリバンがブラックホークを操縦する異常事態、しかも誰かぶら下がっている!

タリバン政権の孤立は確実

ロシアとタリバンの関係は、とりわけ2017年以降緊密になってきた。タリバンの代表がたびたびロシアを訪問して、セルゲイ・ラブロフ外相ら政府高官と話し合いを重ねた。

最近も1カ月前にタリバンの代表団がモスクワを訪問して、記者会見を開催。ロシアと中央アジアのロシアの同盟国を脅かさないこと、アフガニスタン国内で活動する過激派組織「イスラム国」(IS)との戦いを継続することを約束した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

利下げには追加データ待つべきだった、シカゴ連銀総裁

ビジネス

米カンザスシティー連銀総裁「控えめな引き締め維持す

ビジネス

米クリーブランド連銀総裁、「引き締め的な政策」望む

ビジネス

インドCPI、11月は過去最低から+0.71%に加
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 2
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 3
    受け入れ難い和平案、迫られる軍備拡張──ウクライナの選択肢は「一つ」
  • 4
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 5
    【揺らぐ中国、攻めの高市】柯隆氏「台湾騒動は高市…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 8
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 9
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 10
    「前を閉めてくれ...」F1観戦モデルの「超密着コーデ…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 5
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 6
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 7
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 8
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 9
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中