最新記事

スポーツ

ラグビー選手、1シーズンでも脳に悪影響を受けることが判明 英研究

2021年9月15日(水)16時02分
松丸さとみ

ラグビーW杯3位決定戦 ニュージーランド対ウェールズ戦  (記事とは関係ありません)REUTERS/Issei Kato

ラグビーW杯3位決定戦 ニュージーランド対ウェールズ戦  (記事とは関係ありません)REUTERS/Issei Kato

激しいタックルなどが行われるラグビーでは、選手が脳振とうを起こすことも珍しくなく、これまで脳への影響が懸念されてきた。このほど英国で、プロのラグビー選手を対象に行われた調査で、1シーズンだけでも選手の脳に悪影響が出ることが明らかになった。

長期的に見ると、こうした影響が人生の後になって神経変性疾患につながる可能性があるという。調査結果は、学術誌ジャーナル・オブ・エクスペリメンタル・フィジオロジーに掲載されている。

21人のプロ選手を対象に1シーズンを追跡調査

今回の調査を行ったのは、ラグビーが盛んな大学でもある、サウスウェールズ大学のダミアン・ベイリー教授らのチーム。プロのラグビー選手が、1シーズン中に試合や練習で繰り返し他の選手と接触することで、脳への血流量や認知機能に、それぞれどのような影響が起きるかを調べた。

調査に参加したのは、ユナイテッド・ラグビー・チャンピオンシップ(URC)に参加しているプロ・チーム(チーム名は非公開)で、フォワード13人、バックス8人の計21選手。URC(31試合)のシーズン前、シーズン中、シーズン後にそれぞれ、各選手から血液分子、脳血管、認知能力(推論、記憶、知的作業の遂行、案の策定)などに関するデータを集めて比較した。

またシーズン中には、選手が試合中に何度、他の選手と接触(衝突)したかや、脳振とうを起こしたかについても調べた。シーズンが終了したところで、前述のデータと試合での接触状況とを照らし合わせた。

脳への影響が累積していく懸念も

試合中に受けた衝突、タックル、ジャッカルの数は、いずれもフォワード選手の方が多かった。また、シーズン中に発生した脳振とうは合計で6回だったが、フォワード選手5回、バックス選手1回と、フォワードが圧倒的に多かった。

とはいえ、脳への血流量の減少や認知機能の低下は、ポジションにかかわらずどの選手にもみられたという。ただし、ベイリー教授は英公共放送BBCに対し、「フォワード選手の方が接触の数が多いため、バックスより悪化の度合いが大きい」と話している。

研究チームによると、ラグビー選手を対象にした調査はこれまで、脳振とうについて調べたものが多く、接触によって生理的に選手にどのような影響が出るかを調べたものはなかった。研究チームは今回の調査結果から、これまで問題とされてきた脳振とうのみならず、繰り返しの接触(タックルやジャッカルなど)によっても、脳の血流量の減少や認知機能の低下が引き起こされた可能性があるとしている。

研究チームはまた、こうした脳への影響は累積していき、後になって神経変性を引き起こす可能性があることから、さらなる調査が必要だとしている。神経変性疾患とは、神経細胞が変性して神経系の機能が損なわれる病気で、アルツハイマー病やパーキンソン病などがある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:現実路線に転じる英右派「リフォームUK」

ビジネス

ネクスペリア中国部門「在庫十分」、親会社のウエハー

ワールド

トランプ氏、ナイジェリアでの軍事行動を警告 キリス

ワールド

シリア暫定大統領、ワシントンを訪問へ=米特使
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「今年注目の旅行先」、1位は米ビッグスカイ
  • 3
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った「意外な姿」に大きな注目、なぜこんな格好を?
  • 4
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 5
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつか…
  • 6
    筋肉はなぜ「伸ばしながら鍛える」のか?...「関節ト…
  • 7
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 8
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 9
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 10
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 10
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大シ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中