最新記事

感染症

イタリアが「欧州の武漢」に なぜ感染は急速に広がったのか

2020年3月5日(木)11時28分

新型コロナウイルスを封じ込めるために封鎖された「レッドゾーン」の1つ、サン・フィオラーノ。2月ア29日撮影(2020年 Marzio Toniolo)

これまでのところ、欧州で新型コロナウイルスの感染拡大が最悪の状況を迎えているのはイタリアだ。そこでは、日常生活は不気味で行き場のない静寂にとらわれている。夜を迎えればいっそう不安は募る。

ダビデ・ベネッリさんは自宅で、「救急車が行き交う音が聞える。新型ウイルスとは無関係の病人のもとに向かっているのかもしれないが、不安になることには変わりない」と話す。彼が暮らすのは、イタリア国内で封鎖状態にある「レッドゾーン」に位置する人口約1万5000人の街、カサルプステルレンゴだ。感染が拡大したのは1週間前である。

ある朝、目を覚ますと、カフェやレストラン、学校は休業状態だった。作付けの時期が迫る農家は気を揉んでいる。親たちは、子どもの退屈を紛らわせようと家の近くでゲームやお手伝いをさせたり、ときには自転車や自動車で遠出している。

イタリア北部の工業中心地がこのような麻痺状態に陥ったことをきっかけに経済の動揺は欧州全体に波及している。だがイタリアは、散発的に見える感染拡大が数日中にも拡大する可能性をどうやって抑え込むのか手探りの状態で、ユーロ圏第3位のイタリア経済はリセッションの瀬戸際に立たされている。

イタリア当局は同国で最も生産性の高い地域を封鎖し、主要な観光向けイベントの1つであるベネチアのカーニバルを中止し、ミラノのデザインの祭典「ミラノサローネ」も延期された。

イタリア金融界の中心地であるミラノを取り巻くロンバルディア州は、スイスとの国境に位置し、欧州でも最も豊かで生産性の高い地域の1つである。隣接するベネト州など、やはり新型ウイルスの感染拡大による打撃を受けている他の主要地域と合わせて、この地域はイタリアの経済生産の約3分の1を担っている。

エコノミストらの予測では、ただでさえ不振に悩んでいるイタリア経済は、この危機によって第1四半期末までにリセッションに陥り、波及的な影響は数カ月にわたって続くという。

ベネト州のルカ・ツァイア知事は、「ベネトには60万社の企業があり、年間GDPは1500億ユーロ(約18兆円)だ。もしこの州がリセッションに陥ったら、イタリア経済も沈む」と語る。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

6月完全失業率は2.5%で横ばい、有効求人倍率1.

ワールド

キーウ空爆で16人死亡、155人負傷 子どもの負傷

ワールド

26年の米主催G20サミット、開催地は未定=大統領

ワールド

ウィッカー米上院議員、8月に台湾訪問へ 中国は中止
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 2
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 3
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから送られてきた「悪夢の光景」に女性戦慄 「這いずり回る姿に衝撃...」
  • 4
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 5
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 6
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 7
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 8
    【クイズ】2010~20年にかけて、キリスト教徒が「多…
  • 9
    街中に濁流がなだれ込む...30人以上の死者を出した中…
  • 10
    50歳を過ぎた女は「全員おばあさん」?...これこそが…
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの習慣で脳が目覚める「セロ活」生活のすすめ
  • 3
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 4
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 5
    航空機パイロットはなぜ乗員乗客を道連れに「無理心…
  • 6
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 7
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 8
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 9
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 10
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 5
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 6
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 7
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 10
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中