最新記事

北朝鮮

暗がりに潜む金正恩の「処刑部隊」......中朝国境が緊張

2020年1月7日(火)11時00分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載

朝鮮人民軍の部隊を視察する金正恩(2014年12月) KCNA-REUTERS

<政治犯に対する拷問や公開処刑を担当してきた国家保衛省が、中朝国境でいつになく厳しい監視体制を敷いている>

中国と隣接する北朝鮮の北部国境地帯では新年から、国家保衛省の検閲が行われるとともに警戒が強化され、緊張した雰囲気が漂っていると現地のデイリーNK内部情報筋が伝えてきた。

朝鮮半島の最高峰・白頭山(ペクトゥサン)が位置する両江道(リャンガンド)の中朝国境地帯では、最低気温が氷点下21.6度を記録するなど、酷寒の日々が続いている。そのような中で行われている検閲の強化は、一体の空気をいっそう寒々としたものにしているという。

両江道の情報筋は韓国デイリーNKの電話取材に対し、「国境地域に派遣された国家保衛省の検閲隊は、いつになく厳しい監視体制を敷いている」と述べた。新年に当たっての事件・事故の防止キャンペーンのレベルを超え、非常に緊張した雰囲気を醸し出しているとのことだ。

国家保衛省は、政治犯に対する拷問や公開処刑を担当してきた、泣く子も黙る秘密警察である。4人1組や2人1組で構成された同省の警戒巡察隊は、森の中の暗がりや断崖の隙間にも潜み、国境近くを行きかう人々を監視しているという。

参考記事:女性芸能人たちを「失禁」させた金正恩氏の残酷ショー

情報筋は「年末に検閲が行われても、新年の祝日を迎えると総括されて撤収するのが一般的だが、今年は新年にも緊張を緩めていない」と述べた。

国家保衛省がこのような警戒態勢を取っているのは、金正恩党委員長が昨年末に開かれた朝鮮労働党中央委員会第7期第5回総会で、「戦略兵器の開発もより活気を帯びて推し進めるべきである」と主張。続けて「世界は遠からず、朝鮮民主主義人民共和国が保有することになる新しい戦略兵器を目撃することになるであろう」と宣言するなど、強硬路線の回帰を鮮明にしたことと無関係ではないだろう。

北朝鮮当局は従来から、米国や朴槿恵前政権時代の韓国当局が、「最高尊厳(金正恩氏)の声明を狙ったテロを計画してきた」などと主張してきた。その真偽のほどはさておくとしても、北朝鮮が再び大陸間弾道ミサイル(ICBM)開発のまい進し、米国が「もはや手に負えない」と判断するに至れば、金正恩氏を除去しようとの誘惑が頭をもたげるのは必然的なことだ。

それに対し、北朝鮮当局が敏感になるものまた当然のことで、今後しばらく中朝国境地帯では、このような厳しい警戒監視が続くものと思われる。

関連記事:【スクープ撮】人質を盾に抵抗する脱北兵士、逮捕の瞬間!崩れゆく北朝鮮軍の規律

[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。

※当記事は「デイリーNKジャパン」からの転載記事です。

dailynklogo150.jpg



今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、円は日銀の見通し引き下げ受

ビジネス

アップル、1─3月業績は予想上回る iPhoneに

ビジネス

アマゾン第1四半期、クラウド事業の売上高伸びが予想

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任し国連大使に指
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中