最新記事

北朝鮮

家庭も平気で破壊する、覚せい剤に狂った北朝鮮の主婦たち

2018年10月30日(火)15時40分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載

覚せい剤を密造・密売する北朝鮮の犯罪組織の魔の手は、家庭や司法機関にまで及んでいる Nevena Ristic/iStock.

<北朝鮮で広がる覚せい剤使用――売人たちは富裕層に狙いを定め、中毒にさせて常連客にする>

北朝鮮社会の覚せい剤汚染が深刻であることは、国際的にも広く知られた事実だ。かつては国策として日本などに覚せい剤を密輸し、害悪をまき散らした北朝鮮だが、今では自らが深刻な違法薬物の蔓延に悩まされているのである。

参考記事:コンドーム着用はゼロ...「売春」と「薬物」で破滅する北朝鮮の女性たち

覚せい剤を密造・密売する犯罪組織の魔の手は、家庭や司法機関にまで及んでいる。咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋は、次のように話す。

「中学生も覚せい剤をやらなければいじめられ、主婦は人民班(町内会)の会議の前にキメてくる。人民保安省(警察)の機動巡察隊員も夜勤の際にやっている。以前は挨拶代わりにタバコを差し出すのが習慣だったが、最近では顔を合わせると覚せい剤をやる」

日本では最近、男性芸能人が女性と一緒に薬物を使おうとしたところを摘発された事例が目立っているが、北朝鮮においても似たようなことが起きている。

売人たちは「トンジュ(金主)」と呼ばれる富裕層に狙いを定め、「夜の生活(性生活)が強くなる」「痩せる」「頭がスッキリする」などと甘い言葉で誘い、覚せい剤を売りつける。中毒にさせて、常連客にするのである。

狙われるのは、男性だけではない。

前出とは別の内部情報筋が今月中旬に伝えてきたところによれば、最近、咸鏡北道のある郡の朝鮮労働党委員長の娘が覚せい剤中毒となり、大問題になっているという。

「やはり党幹部の男性と結婚した娘は、病気治療の過程でアヘン系の麻薬の中毒になってしまった。その後、アイス(覚せい剤)を火であぶって吸引するようになり、5年にわたって中毒状態に陥っている。夫が繰り返し止めるのも聞かず、家財道具を売り払っては覚せい剤を買っている。さすがの夫も我慢の限界に至り、離婚を要求しているようだ」

韓国の北朝鮮情報ニュースサイトであるニューフォーカスは昨年12月、北朝鮮国内の取材協力者の、次のような話を伝えた。

「最近、当局は薬物取締に関する中央党の指示文を全国の企業所、人民班(町内会)、学校に通達した。指示文には、薬物の使用は社会主義の精神を弱める毒と同じであり、国家の指示に背き乱用した者について『内部の反逆者』として扱うと警告している」

北朝鮮において、国家に対する「反逆者」は死刑もしくは政治犯収容所送りの対象になる。一般の刑事犯とは次元の違う重罰を受けるということだ。

参考記事:北朝鮮で少年少女の「薬物中毒」「性びん乱」の大スキャンダル

しかしその後も、当局の取り締まりが大きな成果を上げているとの情報は聞こえてこない。非核化を巡り韓国や米国との対話が進む北朝鮮だが、仮に近い将来、同国が我々の間に開かれるとして、そこにある社会はどこまで健全なのだろうか。

[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。

※当記事は「デイリーNKジャパン」からの転載記事です。
dailynklogo150.jpg

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

イラン、制裁全面解除ならウラン濃縮度引き下げ検討=

ワールド

香港紙創業者に懲役20年、国安法裁判 国際社会は強

ワールド

仏中銀総裁、6月に前倒し退任 ECB理事会のハト派

ワールド

英首相、辞任要求にも続投示唆 任命問題で政権基盤揺
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:習近平独裁の未来
特集:習近平独裁の未来
2026年2月17日号(2/10発売)

軍ナンバー2の粛清は強権体制の揺らぎか、「スマート独裁」の強化の始まりか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 2
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...周囲を気にしない「迷惑行為」が撮影される
  • 3
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日本をどうしたいのか
  • 4
    【銘柄】「ソニーグループ」の株価が上がらない...業…
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 7
    「二度と見せるな」と大炎上...女性の「密着レギンス…
  • 8
    韓国映画『しあわせな選択』 ニューズウィーク日本…
  • 9
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 10
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予…
  • 1
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 2
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 3
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予防のために、絶対にしてはいけないこととは?
  • 4
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染…
  • 5
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 6
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 7
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日…
  • 8
    エヌビディア「一強時代」がついに終焉?割って入っ…
  • 9
    「右足全体が食われた」...突如ビーチに現れたサメが…
  • 10
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 4
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 7
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 8
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 10
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中