最新記事

バイオテロ

「合成生物学の悪用で新たな兵器が生まれるリスクが高まっている」との研究結果

2018年6月25日(月)19時20分
松岡由希子

近い将来、バイオテロなどへの悪用が可能となるおそれは否定できない D-Keine-iStock

<米国科学工学医学アカデミーは、「合成生物学が新たな兵器を生み出す可能性を広げている」と指摘した>

合成生物学とは、生命科学の知見と工学などの技術とを融合させることにより、生命システムや細胞組織の生成・改変について研究する学問である。

近年、疾病の治療や農業生産性の向上など、人間のよりよい生活に寄与する分野に幅広く応用されてきた。その一方で、合成生物学の進化と普及が、私たちに新たな脅威をもたらすリスクについても指摘されはじめている。

米国科学工学医学アカデミーは、国防総省(DOD)の要請を受け、合成生物学の進化に伴う安全保障上の懸念を評価するフレームワークを構築し、2018年6月19日、その内容をまとめた報告書「合成生物学の時代のバイオテロ防衛」を公開した。

近い将来、バイオテロなどへの悪用が可能となるおそれ

この報告書では「既存の細菌やウイルスをより有害なものに改変するなど、合成生物学が新たな兵器を生み出す可能性を広げている」と結論。その著者のひとりであるミシガン大学のマイケル・インペリアーレ教授は「合成生物学そのものは害を及ぼすものではない」としながらも「米国政府は、急速に進化する合成生物学の分野を注視すべきだ」と警告している。

このフレームワークは、合成生物学が持つ能力を現在から将来にわたって考察できるよう設計されており、技術の有用性、兵器としての有用性、専門家の要否や資源へのアクセスといった必須条件、脅威の抑止や予防策の実行などの緩和可能性という4つの観点から懸念レベルを整理している。

これによると、懸念レベルが最も高いものとして、パンデミック(世界流行)をもたらす既存ウイルスの再形成、より有害な細菌への改変、毒素を生成する微生物への改変という3つのケースが挙げられている。

また、現時点では、ヒトの免疫系の改変やヒトゲノムの改変などに対する懸念レベルは比較的低く評価されているものの、技術の進化に伴って、近い将来、バイオテロなどへの悪用が可能となるおそれは否定できないという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米ワーナー、パラマウントの買収案を拒否 ネトフリ合

ビジネス

FRBは利下げ余地ある、中立金利から0.5─1.0

ビジネス

企業は来年の物価上昇予測、関税なお最大の懸念=米地

ビジネス

独IFO業況指数、12月は予想外に低下 来年前半も
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    【銘柄】「日の丸造船」復権へ...国策で関連銘柄が軒…
  • 8
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 9
    「住民が消えた...」LA国際空港に隠された「幽霊都市…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中