最新記事

北朝鮮情勢

トランプ氏は北に譲歩したのか?

2018年6月4日(月)12時40分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

北朝鮮・金英哲副委員長、トランプ大統領と会談 Leah Millis-REUTERS

金正恩委員長の親書を受け取ったトランプ大統領は、北朝鮮が要求してきた段階的非核化を事実上認めた。これはアメリカの譲歩を意味するのだろうか。答えは「否」だ。むしろ北を追い詰めている。その理由を考察する。

トランプ大統領の方針転換

トランプ大統領は6月1日午後(日本時間2日未明)、金正恩委員長の書簡を持参した金英哲(キム・ヨンチョル)副委員長との会談後、主として以下のような意思表明をした。

1.米朝首脳会談は当初の予定通り、6月12日にシンガポールで行う。

2.これは「プロセス」の始まりだ。今後複数回会談があるだろう。(中国の中央テレビ局CCTVは「トランプはプロセスという言葉を7回使った、いや14回だ」など、「プロセス」に注目している。)

3.非核化は急がなくていい。(実際上、北朝鮮が主張してきた「段階的非核化」を容認する形となった。)

4.但し、非核化が実現しなければ経済制裁は解除しない。現状は維持する。しかし、「最大限の圧力」という言葉は、今後は使いたくない。(つまり、これ以上の制裁を課すことはない。)

5.対北朝鮮制裁を解除する日が来ることを楽しみにしている。

6.北朝鮮が非核化を受け入れた後の経済支援に関しては、日本や韓国あるいは中国などの周辺諸国が行えばよく、遠く離れたアメリカが多く支出することはない。

7.6月12日の米朝首脳会談で、朝鮮戦争の終戦協議はあり得る。

トランプは譲歩したのか?

これだけを見ると、あたかもトランプ大統領が北朝鮮に譲歩したように見える。あれだけ「完全で検証可能かつ不可逆的な非核化(CVID:Complete, Verifiable, Irreversible, Dismantlement)」を見届けなければ首脳会談にさえ入らないと主張してきたアメリカが、「急ぐことはない、ゆっくりやればいい」と前言を翻したのだから、譲歩したと解釈するのも無理からぬことだ。

日本のメディアには、そのトーンのものが散見される。特に毎日新聞の「<トランプ氏>段階的非核化を容認 米朝12日に会談」には「トランプ氏は(中略)非核化の段階ごとに見返りを得たい北朝鮮の戦略に理解を示す姿勢も見せた」とある。本当だとすれば、これは明らかな後退であり譲歩だ。どうも気になって、英文メディアを調べてみた。すると"Trump reinstates summit with Kim Jong Un for June 12 in Singapore"に"Experts said Trump's shifting rhetoric was necessary to keep the summit on track by reducing the gap in expectations between Washington and Pyongyang, which has signaled that it would negotiate only over a slower, step-by-step process to curb its weapons programs in exchange for reciprocal benefits from the United States and other countries."という類似の報道があるのを見つけた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

FRB利下げ「良い第一歩」、幅広い合意= ハセット

ビジネス

米新規失業保険申請、3.3万件減の23.1万件 予

ビジネス

英中銀が金利据え置き、量的引き締めペース縮小 長期

ワールド

台湾中銀、政策金利据え置き 成長予想引き上げも関税
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の物体」にSNS大爆笑、「深海魚」説に「カニ」説も?
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 5
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 6
    アジア作品に日本人はいない? 伊坂幸太郎原作『ブ…
  • 7
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 8
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 9
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 10
    「ゾンビに襲われてるのかと...」荒野で車が立ち往生…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 10
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中