最新記事

北朝鮮情勢

朝鮮半島有事には中国の軍事介入に備えよ

2017年12月22日(金)19時40分
イーライ・ラトナー(米外交評議会シニアフェロー)

トランプ米大統領は北朝鮮で中国の習近平国家主席と主導権争いをすることになる Jonathan Ernst-REUTERS

<中国による北朝鮮への軍事介入を、これまでアメリカは想定してこなかった。トランプ政権は一刻も早く、中国を巻き込んだ危機管理体制の整備や、再統一後のビジョンを確立すべきだ>

朝鮮半島で戦争が起こる可能性が日に日に増している。ドナルド・トランプ米政権は、北朝鮮が核兵器でアメリカを攻撃する能力を手に入れることは断じて認めない立場だ。だが北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長は核・ミサイル開発を止めるどころか減速する気配すらない。緊張緩和のために譲歩する気はどちらにもなく、米政府は軍事攻撃以外の選択肢は残り少ないと警告した。

朝鮮半島で戦争が起きれば壊滅的な結果になるだろう。米議会調査局の推計によれば、最初の数日で最大30万人の死者が出る。数百万人の難民と大規模な人道危機が発生し、戦災復興には少なくとも1兆ドルかかる。だが悲劇はそれだけではない。北朝鮮で米軍と韓国軍が対峙するのは北朝鮮軍だけではすまない可能性が高い。

北朝鮮に自ら戦争を仕掛けることはないが、ひとたび朝鮮半島が不安定化するか戦場になったら黙っていないのが中国だ。朝鮮半島をアメリカの好きにさせるはずがない。急ピッチで軍事力増強を続けてきた中国は、いざとなれば数万人の警察や兵士を北朝鮮に投入する可能性が高い。ところが今のアメリカは、このシナリオに対する準備がまったくない。中国との不用意な軍事衝突を避け、アジアでのアメリカの長期的な利益を死守するため、トランプ政権は戦後の北朝鮮をアメリカにとって好ましい姿に導くための計画策定にすぐ着手すべきだ。

中朝軍事同盟は形骸化

1961年の中朝友好協力相互援助条約による軍事同盟はあっても、もはや中国が捨て身で北朝鮮を助けに行くことはない。米朝関係は近年急速に悪化したし、金は中国の習近平国家主席といまだに対面すらしていない。中国政府とつながりの深い高官も次々に粛清した。中朝関係の改善を図って11月下旬に中国特使が北朝鮮を訪問したが、金は面会を拒否した。

中国が介入に踏み切る場合、戦略目標は少なくとも3つある。1つ目は、北朝鮮の体制崩壊による難民流入をコントロールできる範囲内に収めること。中国政府はすでに中国北東部吉林省の北朝鮮国境の町に難民キャンプを建設する計画を進めている。2つ目は、人民解放軍が北朝鮮の主要な核・ミサイルの開発施設を制圧すること。北朝鮮の核兵器を接収し国外への流出を阻止することは、米中両国に共通する目標だ(必ずしも協力はし合えない)。

第3の目標は、朝鮮半島に大きな軍事プレゼンスを確立することだ。戦後の朝鮮半島を政治的軍事的にどう統治するかという交渉の中で、最大限の影響力を確保するためだ。シリア内戦に介入して中東での影響力を強めたロシアのように、中国も朝鮮半島再統一後の政治に大きな発言力を確保しようとしている。これこそが、アメリカにとって最も厄介な問題だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国銅輸入量、11月は2カ月連続減 価格高騰で

ワールド

ドイツ外相、訪中へ レアアース・鉄鋼問題を協議

ワールド

ミャンマー経済に回復の兆し、来年度3%成長へ 世銀

ワールド

ハマス武装解除よりガザ統治優先すべき、停戦巡りトル
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 2
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 3
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...かつて偶然、撮影されていた「緊張の瞬間」
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 8
    『ブレイキング・バッド』のスピンオフ映画『エルカ…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 8
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 9
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中