最新記事

朝鮮半島

北に翻弄される韓国の情報機関

2016年6月1日(水)17時40分
ジョン・パワー

Damir Sagolj-REUTERS

<相手がいかに秘密主義の北朝鮮でも、処刑されたはずの高官が生き返り、金正日総書記の死の詳細もつかめない。韓国の国家情報院(NIS)を見る目は厳しい> 写真は朝鮮人民軍

 北朝鮮で処刑されたはずの軍高官が表舞台に登場し、韓国の情報機関はまたしてもメンツをつぶされた。

 5月中旬に36年ぶりに開催された朝鮮労働党大会に際し、朝鮮中央通信が朝鮮人民軍の前総参謀長、李永吉(リ・ヨンギル)の姿を伝えた。党機関紙の労働新聞によると、李は政治局の要職に選任されている。

 朝鮮中央通信の報道を受けて、韓国の統一省は李が生存していると判断した。

 韓国メディアは今年2月、李が権力乱用や汚職などの罪で処刑されたと伝えていた。詳しい情報源は伏せられていたが、韓国の京郷新聞は今回、「関連機関」からの情報をもとに統一省が見立てた筋書きだったことを明らかにした。

【参考記事】北朝鮮軍「処刑幹部」連行の生々しい場面

「関連機関」は国家情報院(NIS)を指すと考えるのが常識だが、NISは李に関する情報を提供したことを否定している。韓国メディアが自分たちの報道に情報当局が関与していることを明かしたくないという事情にも助けられ、NISは知らぬ存ぜぬを通している。

元院長には有罪判決

 もっとも、近年のNISは諜報活動の失敗が続き、信頼性は既に揺らいでいる。さらに、朴槿恵(パク・クネ)政権が誕生した12年の大統領選に介入したとして当時の院長が有罪判決を受けるなど、政治スキャンダルでも評判を落としている。

【参考記事】北朝鮮を「愛する」韓国政治家たち

 一方で、北朝鮮で処刑されたはずの要人が「生き返る」のは、今回が初めてではない。最高指導者の金正恩(キム・ジョンウン)は権力基盤を固めるために粛清を繰り返しているとみられるが、厳しい報道規制もあり、詳しい情報が漏れてこないことも確かだ。

 昨年11月、要人の国家葬儀委員に韓光相(ハン・グァンサン)の名前があることが分かった。朝鮮中央通信が金正恩の視察を伝えた際も、同行者として紹介された。朝鮮労働党部長を務める韓は3月から消息が途絶え、NISは5月に、韓が粛清されたと国会に報告していた。NISが同じ5月に粛清されたと報告した国防委員会の幹部も、10月に北朝鮮メディアで健在な姿が報じられた。

 今年1月に北朝鮮が実施した4回目の核実験に関する事前の情報や、11年に金正日(キム・ジョンイル)総書記が死去した際の詳細な情報も、NISは入手できなかったとみられている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米裁判所、トランプ関税還付を命令

ワールド

アングル:揺れるイラン、ハメネイ師後継に次男モジタ

ビジネス

午後3時のドルは157円前半で方向感欠く、原油動向

ワールド

台湾周辺での中国軍機の飛行が急減、米中首脳会談控え
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプのイラン攻撃
特集:トランプのイラン攻撃
2026年3月10日号(3/ 3発売)

核開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。イランとアメリカの本格戦争は始まるのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで続くのか
  • 2
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られる」衝撃映像にネット騒然
  • 3
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 4
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
  • 5
    「外国人が増え、犯罪は減った」という現実もあるの…
  • 6
    「イランはどこ?」2000人のアメリカ人が指差した場…
  • 7
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 8
    核合意寸前、米国がイラン攻撃に踏み切った理由
  • 9
    少子化に悩む韓国で出生率回復...昨年過去最大の伸び…
  • 10
    戦術は進化しても戦局が動かない地獄──ロシア・ウク…
  • 1
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからくりとリスク
  • 2
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 3
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズった理由
  • 4
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 5
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 6
    村瀬心椛は「トップでなければおかしい」...スノボの…
  • 7
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで…
  • 8
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 9
    少女買春に加え、国家機密の横流しまで...アンドルー…
  • 10
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 7
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中