最新記事
著作権

AIが生成した「作品」は誰のものか? 一握りのAI開発企業が、著作権を独占する可能性も

WHO OWNS THE CONTENT?

2023年6月23日(金)18時20分
セルジャン・オズジャン(英ポーツマス大学准教授)、ジョー・セコン(同上級講師)、オレクサンドラ・オズジャン(同講師)
生成AIイメージイラスト

ILLUSTRATION BY VECTORGENERATOR/SHUTTERSTOCK

<対話型AIが生成したコンテンツの著作者はいまだ定まっていない。強大なAI開発者が途方もない影響力を持つ暗い未来もあり得る>

対話型AI(人工知能)「チャットGPT」は人間が作ったかのように自然なコンテンツを生成する。多くの用途が想定される期待の技術だが、その目覚ましい能力は重大な疑問も投げかける。すなわち、AIが作ったコンテンツは誰のものなのか。

イギリスでは、コンピューターによる生成物は「1988年著作権・意匠・特許法(CDPA)」に基づき「人間の作者が存在しない状況でコンピューターが生成したもの」と定義される。AIが自動生成したコンテンツも著作権で保護される対象になり得ることを、CDPAは示唆している。

だが対話型AIが何を基にして回答を生成したかを突き止めるのは難しいし、その中には著作権で保護されているコンテンツが含まれていた可能性もある。

そこで第1の問いは、「第三者が作ったコンテンツを使って回答を生成することを、チャットGPTは許されるべきか」。第2の問いは、「AI生成のコンテンツの著作者と認められるのは人間だけなのか。AIを著作者と見なすことは可能か」だ。

まず第1の問いを考えよう。チャットGPTは大規模言語モデル(LLM)なる技術に支えられている。大量のデータを学習することで性能を上げるのだが、データには膨大なウエブサイトや書籍が含まれる。イギリスは非営利目的に限り、AI開発者にテキスト・データ・マイニングによる情報利用を許可している。

開発したオープンAI社の利用規約には、「(チャットGPTが生成する)回答の権利、権限、利益」はユーザーに帰属するとある。一方でオープンAIは、法に抵触しないようにしてコンテンツを使用するのはユーザーの責任ともしている。また利用規約には変更の可能性があり、著作権のような安定性も効力もない。

唯一の解決策は法を整備し、政府が方針を明確にすることだろう。さもないとAIが使用している著作物の権利が自分たちにあることを証明しようと、個々の組織がばらばらに法的手段に訴えることになる。また各国政府が対策を講じなければ、あらゆる著作物が著作者の許諾なしに使われる事態を招きかねない。

知的財産権が無視される日

続いて、AI生成コンテンツの著作権は誰にあるのかという問題を考えたい。生成に使われた著作物の権利をその作者が主張しなければ、コンテンツの権利はユーザー個人かAIの開発企業にあると見なされるかもしれない。

著作権法は原則として、人間の創作物のみを保護の対象とする。チャットGPTの基盤となるアルゴリズムを開発したのはオープンAIだから、アルゴリズムの著作権は彼らのものかもしれない。だがその権利がチャットGPTが繰り出す回答にまで及ぶとは限らない。

AIが生成したコンテンツの権利はAIのものだ、という考え方もある。もっともイギリスの法律はAIが著作権を持つことを禁じている。AIは人間ではないので、CDPAの規定する著作者や著作権者(著作権の所有者)と認められないのだ。

文学、演劇、音楽、芸術分野の作品が雇用関係において制作される場合は、基本的に雇用主が成果物の第一の著作権者になる。

今のところ政策立案者は、あくまでも人間の創造性というプリズムを通して著作権の所在を判断している。だが今後AIが進化し性能が上がれば、AIに法的能力を付与することを検討するかもしれない。そうなれば著作権法の在り方は根底から揺さぶられ、誰(あるいは何)を著作者や著作権者とするかの解釈は大きく変わるだろう。

企業がAIを製品やサービスに取り入れるなか、こうした変化はビジネスに影響を及ぼす。マイクロソフトは3月、チャットGPTを基にした対話型AI「コパイロット」をワードやエクセルといったソフトウエアに搭載すると発表した。コパイロットは文章によるコミュニケーションやデータの要約を補助する。

同様の動きは今後増えるだろう。早期導入者、いわゆる「アーリーアダプター」には、AIを利用して勢いに乗るチャンスがある。優位に立つのは往々にして、ライバルに先駆け新しい製品を市場に投入する企業だ。

イギリス政府は2021~22年にかけて専門家を招集し、AIと著作権に関する審議会を開いた。するとテック業界の専門家がAI生成コンテンツはユーザーに帰属すると主張したのに対し、クリエーティブ系の専門家はそうしたコンテンツについては著作権を一切認めないよう要望した。政府は結果を受けてさらなる審議を求めただけで、対策を打ち出すには至っていない。

著作権法が人間中心でなくなれば、AIが著作者に、AI開発者が成果物の著作権者に分類されることは想像に難くない。そうなれば強大な一握りのAI企業が途方もない影響力を持ち、著作権で保護された無数の音楽や書籍や映像画像などのデジタル資産を独占するかもしれない。

著作権のある作品に基づくAI生成コンテンツは公有にしておくべきと考えるのが、妥当だろう。個人であれ企業であれ、AIを使用した際は自分の貢献を申告するという手もある。貢献を自動計算するソフトウエアを開発し、その度合いに応じて功績を認め、報酬を払うのもいい。

AI生成コンテンツの取り扱いは、厄介だ。著作権で守られた素材を使用できなければ、AIの性能は落ちるかもしれない。だが何の対策もせずにそうした素材を使い続けるなら、私たちは知的財産権がないがしろにされるオープンイノベーション時代の到来を受け入れるしかない。

The Conversation

Sercan Ozcan, , University of Portsmouth; Joe Sekhon, Senior Lecturer in Intellectual Property Law, University of Portsmouth, and Oleksandra Ozcan, Lecturer, University of Portsmouth

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.


ニューズウィーク日本版 世界が尊敬する日本の小説36
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年9月16日/23日号(9月9日発売)は「世界が尊敬する日本の小説36」特集。優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


座談会
「アフリカでビジネスをする」の理想と現実...国際協力銀行(JBIC)若手職員が語る体験談
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

「ガザは燃えている」、イスラエル軍が地上攻撃開始 

ビジネス

英雇用7カ月連続減、賃金伸び鈍化 失業率4.7%

ワールド

国連調査委、ガザのジェノサイド認定 イスラエル指導

ビジネス

25年全国基準地価は+1.5%、4年連続上昇 大都
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く締まった体幹は「横」で決まる【レッグレイズ編】
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 6
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 7
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 8
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中