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メンタル防衛に必要なのに、職場から消えたものは「雑談」と...

2018年9月30日(日)11時35分
印南敦史(作家、書評家)


 それに対して、今の職場のイメージを擬音であらわすならば「シーンパチパチ」(パソコンのキーボードを叩く音)です。「チームで仕事をする」から、仕事内容や待遇を上司と面談で決め、個人ベースで進めていくようになりました。個人の仕事目標を決め、その達成度で評価する「目標管理制度」の導入もあり、仕事が個人単位になってきたのです。
 隣の人とも、あまり無駄話はしません。今の職場はかつてと比べて、格段に労働密度が上がっています。だらだらと雑談に興じたり、用もなく他の部署を覗きに行ったりする余裕はぐっと減りました。(65〜66ページより)

たしかにそのとおりで、気がつけば職場からは無駄話が減った。数年前、華々しい実績を打ち出しているある会社の人に「すごい会社ですね」と話したところ、「オフィスは毎日お通夜状態ですけどね」という返事が帰ってきたことを思い出す。つまり残念ながら、いまはそれが"普通"なのだ。

だが、業務とは直接関係がなく、一見無駄で非効率的に見える「雑談」は、意外と侮れないものなのだと著者は言う。事実、うつ病になってしまった人に話を聞くと、「誰にも悩みを相談できなかった」という答えが返ってくることが少なくないそうだ。それが、ガス抜きの場としての「雑談」がなくなったことの弊害であることは想像に難くない。

しかも、過剰なストレス状態にある社員は、なかなか自分が異常な状態にあることに気づけないものである。それどころか部署ぐるみで「自覚なき過労サイクル」に入っていることもあり、そういう場合にはさらに気づきが遅れる。しかしそんなとき、他の部署からやってきて「疲れすぎじゃないのか」などと声をかける「雑談おじさん」が、重要な役割を果たすことがあるというのだ。

「雑用」「社員が行う軽作業」が消えたのは重大な変化

そしてもうひとつ、日本の職場から姿を消しつつあるのが「雑用」で、雑用が消えたことは精神科医にとって由々しき事態でもあるのだそうだ。


 メンタルに不調を訴え、しばらく業務を離れた社員が、職場復帰を果たします。その際、医師として、元の仕事量にいきなり戻すのは負担が重すぎる、少しずつ職場に復帰させたい、と助言することがあります。
 そんなとき、かつてならば軽作業という業務がありました。ファイルの整理をしたり、社に届いた郵便物を仕分けしたりといった、自分のペースで進められ、心身の負担の軽い仕事です。ところが、これも労働密度が高度になり、アウトソーシングされたり、OA化が進んだりして、「社員が行う軽作業」がどんどんなくなっているのです。職場に「契約、登録、請負、派遣社員」などの非正規社員が増加していき、いまでは実に勤労者の4割を占めています(かれら非正規社員の労働環境も深刻な問題です)。特に近年は人手不足もあって、社員に「雑用」をさせておく余裕がない、というのが、会社側の実情になっています。(67〜68ページより)

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