最新記事

権力

社会を変えるのは、実は「風見鶏」タイプの人──ハーバード大学「権力の授業」より

POWER, FOR ALL

2022年7月7日(木)14時42分
ジュリー・バッティラーナ(ハーバード大学ビジネススクール教授)、ティチアナ・カシアロ(トロント大学ロットマン経営大学院教授)

220712p18_BSI_06.jpg

アラブの春 ZOHRA BENSEMRAーREUTERS

理由は、工場の機械がよく壊れるから。故障が発生すると作業ラインが止まり、作業目標が達成できないだけでなく、従業員の給料にも響く。

機械を修理できるのはメンテナンス担当者だけで、彼らも修理のノウハウという希少価値の高いリソースを有するのは自分たちだけだと分かっていた。彼らは重要な情報を囲い込んだ。記録を残すことも、修理マニュアルを作成することもなかった。

このエピソードから分かるように、組織にとって重要なリソースを支配していれば、公式の役職が示唆する以上のパワーを持てる場合がある。

パワー相関図を作る

新たな役割を担った、新たな目標を設定した、組織改革を進めたい、などの理由で影響力を強めたい局面でカギとなるのは、「補佐官」にふさわしい人物を見極めることだ。

変化への抵抗感を乗り越えるには、表向きの上下関係のベールを剝がして、メンバー同士の人間関係を把握し、以下の質問に答えて詳細な「パワー相関図」を作成する必要がある。

身近な人間関係や組織、企業、業界、あるいは特定の職業などの集団において、誰が強大なパワーを有している? 彼らが重視するリソースは何? 各メンバーはどんなリソースを持ち、そのアクセス権をどの程度支配している? 仲良しグループや派閥はある? そして、あなたと各メンバーとの関係は?

ただ、本気で変革を主導しようと思ったら、パワーを持つ人を特定するだけでは不十分。あなたの改革案を彼らがどう思っているかについての情報も含めた相関図が必要となる。

影響力の大きい人物──変化を受け入れるよう周囲を説得でき、改革の成否を分けるキーパーソン──には、大きく分けて「支援者」「抵抗勢力」「風見鶏」の3つのタイプがある。

「支援者」は変革に前向きの、「抵抗勢力」は後ろ向きの人々。そして、「風見鶏」は変革に功罪両面があると感じ、意見を決めかねている人だ。

では、変革を実現するために助けを求めるべき相手、信頼関係を築いて、距離を縮めるべき相手は、どのタイプだろうか?

実のところ、密接な関係を築くべき唯一の存在は「風見鶏」だ。「風見鶏」の人々との接近には状況を一変させる力がある。

変革者にとっての鉄則は「風見鶏」への対応に集中すること。ターゲットは個人的に親しい関係にあり、かつ改革案への見解が定まっていない人。この定義に当てはまる人に、変革の必要性を訴えかけることに時間とエネルギーを集中させよう。

パワーは「万人のもの」

ブラック・ライブズ・マター、香港の抗議運動、#MeToo、フランスの黄色いベスト運動、アラブの春──これらは過去10年ほどの間に、社会変革を求めて大勢の人々が立ち上がり、多大な注目を集めた社会運動の一部だ。ソーシャルメディアが普及したおかげで大きな話題となったため最近の現象に思えるかもしれないが、そんなことはない。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

北朝鮮の金総書記、新誘導技術搭載の弾道ミサイル実験

ワールド

アフガン中部で銃撃、外国人ら4人死亡 3人はスペイ

ビジネス

ユーロ圏インフレ率、25年に2%目標まで低下へ=E

ビジネス

米国株式市場=ダウ終値で初の4万ドル台、利下げ観測
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 5

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    無名コメディアンによる狂気ドラマ『私のトナカイち…

  • 8

    他人から非難された...そんな時「釈迦牟尼の出した答…

  • 9

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 10

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中