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日本の2社しか作れない、世界の航空業界を左右する新素材

2018年1月19日(金)17時30分
田宮寛之(東洋経済記者)※東洋経済オンラインより転載

新素材SiC繊維は、ボーイング737MAXやエアバスA320neoに採用されている(写真:Boeing、Fred LANCELOT/Airbus)

日本発の新素材が航空業界の将来をも左右しそうだ。その新素材とは炭化ケイ素(SiC)繊維。炭素とケイ素の化合物を繊維化したものだが、軽量かつ高強度で、耐熱性にも優れている。

SiC繊維を作るには炭素とケイ素を結合させた繊維状の物質を焼き固めなくてはならないが、焼き固める前の段階では飴細工のようにもろく、ほんの少しの刺激で粉状に砕けてしまう。しかも、温度条件に過敏に反応するので同じ品質のものを作ることが難しい。世界で製造できるのは日本カーボンと宇部興産の2社だけで、米国化学大手ダウケミカルや米国ガラス大手コーニングなどは途中で開発を断念した。

燃費改善は喫緊の課題

現在、航空機需要は拡大が続いている。グローバル化の進展により航空機を利用する人が増加。 日本航空機開発協会によると、全世界でのジェット旅客機の運航機数は2016年末の2万1597機から2036年末には約1.8倍の3万8866機に伸びる見通し。同期間中に約3.3万機(販売額は約5兆ドル)の新規納入、8.3万基(同約1兆ドル)のエンジン需要(スペア用含む)が見込まれている。

航空機数が大幅に増加するので、燃料費抑制のための燃費改善が極めて重要になる。さらに燃費改善は、環境面からも対応が急務となっている。

国際民間航空機関(ICAO)は2010年の総会で「2050年まで燃料効率を年率2%改善し、2020年以降CO2排出量を増加させない」と決議した。2016年の総会では加盟191カ国がCO2排出量規制の枠組みに同意し、超過分については各航空会社が排出権購入を義務づけられることになった。「日本の航空会社の排出権購入量は2012年の十数億円規模から2035年には数百億円規模に拡大する見込み」(日本航空機開発協会)。

燃費改善には航空機を軽量化する必要があり、翼や胴体部分では従来のアルミ合金から炭素繊維への置き換えが進んでいる。たとえば欧州エアバス「A350XWB」では、機体の53%に炭素繊維が使用されている。

しかし、飛行機のエンジン部分は飛行中に1300度を超えるため炭素繊維は使用できず、ニッケル合金が使用されている。このニッケル合金の代替として期待されている素材がSiC繊維だ。

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SiC繊維はエンジンの高温エリアで使用されている(図表提供:宇部興産)

耐熱温度は1800~2000度

SiC繊維はニッケル合金と比べて重さが3分の1で強度は2倍、耐熱温度が1800~2000度と高い。ニッケル合金を使用したエンジンは外から取り込んだ空気で冷やさなくてはならないが、SiC繊維を使用したエンジンは空冷の必要がない。そこで、取り込んだ空気を推進力として活用できる。

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