コラム

スキャンダル続きのクオモNY州知事、政治的サバイバルはできるのか?

2021年03月30日(火)15時30分

クオモNY州知事はしぶとく辞任を回避しているように見えるが Brendan McDermid-REUTERS

<一連のスキャンダル攻撃を仕掛けているのは共和党ではなく実は民主党内の左派>

ニューヨーク州のアンドリュー・クオモ知事といえば、2020年3月~5月にかけての、ニューヨーク州における新型コロナウイルス感染の第一波では、一度は英雄になりました。当時のトランプ政権と渡り合って医療体制を構築する一方で、毎日昼から州庁舎で行った定例会見は好評であり、危機管理のプロという評価が国内外から寄せられました。

ところが、2021年に入ると知事への州内での評価は激変しました。まず2月上旬には、前年3月におけるコロナ対策の見込み違いから、長期滞在型の高齢者施設において、避けられたかもしれないコロナ死亡が発生したという批判が出ました。これは、知事としては確保すべき病床数を多く見積もり過ぎたためであり、報告数字の操作をしているという疑惑を含めて、一部誤解も含まれていたことから沈静化しました。

2月下旬になると、これに代わって、知事個人に関するセクシャルハラスメントの告発が続きました。告発者の数は多く、一時は辞任やむなしという雰囲気が漂いました。ですが、本格的に州議会が弾劾のプロセスを進めようとすると、告発者の中から証言拒否をする女性が複数出ており、また疑惑に対して否定的な女性部下が出るなど、一時期見られたような窮地からは脱した形です。

知事の場合は、例えば「Me Too」運動の発端となった映画プロデューサーなどとは違って、性的暴行や虐待の容疑があるわけではなく、うっかり職場の女性にも「馴れ馴れしくしてしまった」という延長の言動を問われているものです。

現在の価値観からすると「女性が不快に思ったら即アウト」なのは確かです。ですが、政治的に悪玉になった途端に過去のその人との関係が突然不快になるということでは、いくら何でも恣意的に過ぎるわけです。ですから、その点で節度のある女性は証言拒否に回っているようです。そんな中で、現時点ではこのセクハラ問題については、逃げ切れるかは五分五分というところです。

ワクチン問題は解決

さらに3月になると、コロナ絡みのスキャンダルが出てきました。まず、PCR検査について、近親者が簡単に受けられるように便宜を図った疑惑が報じられました。この疑惑については、まだくすぶっていますが、PCR検査へのハードルの低いアメリカでは大きな問題にはならない可能性もあります。

一方で、ニューヨーク州の各郡に対して知事の側近が「知事に忠誠を誓わないとワクチンを割り当てない」と恫喝したという報道が出た際には、「さすがの知事もこれはマズイのでは」という印象が広がりました。ところが、その後、ニューヨーク州へのワクチンの割り当て状況が好転し、4月6日からは、接種対象者の年齢を16歳以上に引き下げる、つまり16歳以上の全員について接種するメドがつくこととなり、この疑惑も余り問題にならなくなりました。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

GM、通期利益予想引き下げ 関税の影響最大50億ド

ビジネス

米、エアフォースワン暫定機の年内納入希望 L3ハリ

ビジネス

テスラ自動車販売台数、4月も仏・デンマークで大幅減

ワールド

英住宅ローン融資、3月は4年ぶり大幅増 優遇税制の
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story