コラム

手詰まり感が濃厚になった北陸新幹線の「福井先行開業」

2015年06月04日(木)13時29分

 今年2015年3月14日に長野~金沢間が延伸開業した北陸新幹線は、現時点では西へ延ばし福井経由で敦賀までのフル規格整備が決まっています。建設を担当する鉄道・運輸機構も、開業後実際に運行するJR西日本も「金沢~敦賀間は2022年に開業」という計画を前提に工事や準備を進めていました。

 ところが、今年に入って雲行きが変わって来ました。自民党内の「与党整備新幹線建設推進プロジェクトチーム」の座長が、亡くなった町村信孝前衆院議長から稲田朋美政調会長に変わると共に、「福井先行開業」の声が大きくなってきたのです。目標は「2020年、オリンピックの年」に福井先行開業を実現するというのです。

 この「金沢~福井間」ですが、既に様々な準備はされています。例えば、今回の金沢延伸に伴って建設された「白山車両基地」は金沢駅から福井へ向かって約10キロ西へ行ったところにありますから、この区間は既に完成しているわけです。また福井駅やその周辺も一部の高架橋などの整備は先行しています。

 ですが、建設計画はあくまで「金沢~敦賀」ということで進んでいました。というのは、暫定的であれ、福井が終点になるのであれば「折り返し用の留置線」が必要になるからです。現在の計画では福井駅は「ホームが1つ」の「1面2線」という設計になっており、留置線の計画はありません。それどころか、現在その「新幹線福井駅」の構造はほぼ完成しているのです。

 ホームを「2面4線」にしておけば良かったのかもしれませんが、そうなると「高速での通過」が可能となり、仮に敦賀の先も完成して大阪や京都から北陸方面に向かう新幹線ができた時に「速達型が停車しない」可能性があるわけです。福井が早々に「1面2線」の駅を作ってしまったのには、「全列車を停車させる」という「決意」を示すという事情もあったのでしょう。

 このまま「留置線」がないままに「終点」としてしまうと、色々な問題が生じます。例えば22~23時台に異常気象などでダイヤが乱れた場合、下りの最終が来ていないと翌朝のダイヤの回復ができない、あるいは車両点検が必要な場合に場所がないなど、とにかく「終点駅には留置線が必要」です。そして夜間も含めて、常に予備の編成を留置しておくことが鉄則なのです。

 この「留置線」ですが、福井駅の周辺で用地を検討していたのですが、適当な場所がないことから、6月1日のミーティングでは候補地として、鉄道・運輸機構サイドから福井の北15キロほどの「あわら市近辺の水田地帯でどうか」という提案があったそうです。これに対して与党自民党の議員たちからは「一歩一歩前進」だとか「技術的な問題はない」などの発言が出た、中日新聞の電子版はそう伝えています。

 では、本当に問題はないのでしょうか? 実は、たくさんあります。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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