コラム

アサド政権によるクルド人支援──「シリアでの完全勝利」に近づくロシア、手も足も出ないアメリカ

2018年02月23日(金)19時30分

これに対して、トルコとクルド人勢力に「二股」をかけ続け、結局どっちつかずに終始した米国は、中東最大の激戦地となったシリアでの内戦の終結に、ほとんど寄与できないことになります。

大統領選挙期間中からトランプ氏は慎重なオバマ政権を「弱腰」と批判し、「米国を再び偉大にする」と豪語してきました。しかし、アフリンのクルド人勢力を支援するという「より強気な」トランプ政権の方針は、結果的に裏目に出たといえるでしょう。とはいえ、国内の「ロシア疑惑」などもあり、トランプ大統領には必要以上にロシアに対する厳しい姿勢を示したい動機づけがあります。

そこで注目すべきは、米国が「ロシアがシリア内戦でのトロフィーを獲得したことを認めて静かに退場する」か、あるいは「ロシアの『完全勝利』を認めずに『IS対策』を理由にシリアへの関与を続けるか」です。前者の場合でも東グータなどで民間人の死傷者は出続けるでしょうが、後者の場合はさらにシリアでの戦闘が長期化することが懸念されます。

アサド政権とクルド人勢力の連携により、2011年から続くシリア内戦は今後の趨勢を左右する重要な局面を迎えたといえるでしょう。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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