中国軍事

「ロシア軍化」の病理──ロシア軍と中国人民解放軍の「共通の欠点」とは?

2022年6月14日(火)14時25分
ミンシン・ペイ(本誌コラムニスト、クレアモント・マッケンナ大学教授)

もう1つの共通する弱点は、実戦経験の乏しさだ。ロシア軍はこの30年間、チェチェン、ジョージア、ウクライナ、シリアで比較的小規模な戦争しか経験していない。そのため、ウクライナの全土に攻め込むのに必要な戦闘経験を積めていなかった。

その点では、人民解放軍も同様だ。1979年の中越戦争以来、実際の戦闘を経験していない。90年代以降、中国は軍備の近代化に莫大な投資を行ってきたが、人民解放軍の実戦での戦闘能力は不明だ。

ロシア軍がウクライナで苦戦を強いられていることを考えると、今の人民解放軍が戦争に勝てると言えるだろうか。ましてや、アメリカのような大国を相手にした大掛かりな戦争に勝てるとは楽観できない。

中国政府が人民解放軍を強化するために取れる唯一の現実的な方策は、透明性を大幅に高めることだ。もしロシアでメディアの監視の目が行き届いていれば、軍に根を張っている問題の数々がもっと早い段階で明るみに出て、是正されていただろう。ウクライナ戦争の戦況も、今とは違ったものになっていたかもしれない。

習近平がウクライナ戦争から学ぶべき教訓は、自国で最も秘密主義的な組織である人民解放軍に対する監視をもっと強めるべきだということだ。そうすれば、改革すべき点がいくつも見えてくるに違いない。

©Project Syndicate

PSC_MinxinPei_130.jpgミンシン・ペイ
MINXIN PEI
上海生まれ。上海外国語大学を卒業後、米ハーバード大学で博士号取得。クレアモント・マッケンナ大学教授。専門は中国政治など。中国の政治体制に対する「懐疑派」の代表格として知られる。

今、あなたにオススメ
話題のニュースを毎朝お届けするメールマガジン、ご登録はこちらから。

今、あなたにオススメ

注目のキーワード

注目のキーワード
投資

本誌紹介

特集:世界が愛した日本アニメ30

本誌 最新号

特集:世界が愛した日本アニメ30

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中

人気ランキング

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    美女モデルの人魚姫風「貝殻ドレス」、お腹の部分に…

  • 10

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

もっと見る