ニュース速報
ビジネス

アングル:国産ウイスキー100周年、業界に「クラフト」の波

2023年11月27日(月)11時26分

 日本の代表的な独立系ウイスキーメーカーの一つとして知られる「静岡蒸留所」──。ここでは世界中で急拡大する需要に応えようと、近隣の森から伐採したスギをまきに使った蒸留器でウイスキーが製造されている。写真は試飲を行う中村大航さん。10月25日撮影(2023年 ロイター/Rocky Swift)

Rocky Swift Chris Gallagher

[静岡県静岡市 21日 ロイター] - 日本の代表的な独立系ウイスキーメーカーの一つとして知られる「静岡蒸留所」──。ここでは世界中で急拡大する需要に応えようと、近隣の森から伐採したスギをまきに使った蒸留器でウイスキーが製造されている。

日本のウイスキー生産は今年、100年の節目を迎える。業界大手のサントリーが1923年、京都府南西部の山崎に国内最初の蒸留所を開設した。

それから一世紀を経た現在、日本国内には100以上の蒸留所が存在する。過去10年間で2倍に増え、急速に拡大する市場の中で存在感を高めようと互いに競い合い、他との差別化を図っている。

静岡蒸留所の特徴の一つは、スギのまきの直火で蒸留しているという点だ。同蒸留所によれば、これは世界でもほかに例がないという。

こうした「クラフト蒸留所」は、事業規模ではサントリーなどの大手には及ばないものの、その熱意は世界クラスだ。

中村大航(たいこう)さん(54)はスコットランド旅行をきっかけに2016年、静岡蒸留所を設立した。

「2012年にスコットランドへ初めて行き、ウイスキーの蒸留所を見た。本当に小さい田舎の山で世界中にウイスキーを販売しているということを知って、感動した」と中村さんは振り返る。

「自分でウイスキーを作り、それを世界中で飲んでもらえれば、すごく楽しいだろうと思った」

爆発的人気を得つつある日本のクラフトウイスキーだが、過去の国内のウイスキー業界には好不況の波があった。

<量より質を>

日本産のシングルモルトウイスキーやブレンドウイスキーは長年、「スコッチの劣った模倣品」と見なされてきた。ただ、2008年ごろから国際的な賞を獲得し始めて世界中で需要が高まり、2015年頃までには供給が枯渇し始めた。

供給不足から価格は急騰。国産クラフトウイスキーの先駆けとなった埼玉県・秩父蒸留所の「イチローズモルト」シリーズは、香港のオークションで2020年、54本セットが150万ドル(約2億2230万円)で落札された。今月中旬には、競売大手サザビーズが日本の希少なウイスキーを集めたコレクションを出品。中でも52年熟成された1本が30万ポンド(約5580万円)で落札された。

国内の大手メーカー、サントリーとアサヒグループホールディングス傘下のニッカはこの10年、2021年の基準で最低でも3年間の熟成を要件とする「日本産ウイスキー」の生産能力の拡大と在庫数の増加に注力した。

国内最大で知名度も高いウイスキーメーカーのサントリーは今年、山崎を含む複数の蒸留所を改修するために100億円を投資すると発表した。

サントリーの5代目チーフブレンダー福與(ふくよ)伸二氏は、新規の国内蒸留所を歓迎しており、国産ウイスキー全体の品質維持・向上につながる限りは、サントリーがスタートアップ企業への助言も行うと話す。

日本のウイスキー市場には外貨も投入され始めている。酒造大手の英ディアジオ社は2021年、鹿児島県の老舗焼酎メーカー「小正醸造」が2017年に設立したウイスキー蒸留所「小正嘉之助(こまさかのすけ)蒸溜所」に少数株主として出資した。

日本経済新聞社が3月に報じたところによると、米ケンタッキー州を拠点とする「IJWウイスキー」傘下のシーダーフィールドは、北海道千歳市に国内最大級のウイスキー蒸留所を建設する予定だという。

シーダーフィールドの担当者は、この計画についてコメントを差し控えた。

新規参入の業者が増え、新たな商品が市場に出回る中、業界からは質の低いウイスキーが日本産ウイスキー全体の評価を落としかねないと懸念する声も上がる。

「それは業界が本当に恐れていることだ」と話すのはケイシー・ウォールさんだ。米国出身のウォールさんは、北海道の利尻島に酒造会社「カムイウイスキー」を設立した。

静岡蒸留所の中村さんは、自身のようなメーカーは製造過程を大切にし、結果を待つのみだと話す。

「先人たちが作り上げたジャパニーズウイスキーの良さがある。今度は自分たちがしっかりと、『日本のウイスキー』という名に恥じない品質のウイスキー造りを全力をかけて実現させる必要があると思っている」

ロイター
Copyright (C) 2023 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

国内企業物価5月は前年比3.2%上昇、伸び縮小

ビジネス

モルガン・スタンレー、第2四半期末業績は堅調見込む

ビジネス

米電力消費、今年と来年は過去最高へ データセンター

ビジネス

米とメキシコ、50%の鉄鋼関税削減で交渉 クォータ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 3
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるのか?...「断続的ファスティング」が進化させる「脳」と「意志」
  • 4
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 5
    「白鵬は、もう相撲に関わらないほうがいい」...モン…
  • 6
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 7
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未…
  • 8
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 9
    まさか警官が「記者を狙った?」...LAデモ取材の豪リ…
  • 10
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラドールに涙
  • 3
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 4
    猫に育てられたピットブルが「完全に猫化」...ネット…
  • 5
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 6
    日本の女子を追い込む、自分は「太り過ぎ」という歪…
  • 7
    ひとりで浴槽に...雷を怖れたハスキーが選んだ「安全…
  • 8
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 9
    50歳を過ぎた女は「全員おばあさん」?...これこそが…
  • 10
    プールサイドで食事中の女性の背後...忍び寄る「恐ろ…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 7
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中