ニュース速報

ビジネス

アングル:妊婦に多数の粉ミルク広告、ソーシャルメディア経由激増のわけ

2022年05月06日(金)11時43分

 4月29日、米ニューヨークの非営利団体でシニアアナリストとして働くステファニー・ラバータさん(31)は、妊娠6カ月の時に自身のインスタグラムやフェイスブックに時折、粉ミルクの広告が表示されるようになったことに気付いた。フランス南部セートで2016年3月撮影(2022年 ロイター/Regis Duvignau)

[ロンドン 29日 ロイター] - 米ニューヨークの非営利団体でシニアアナリストとして働くステファニー・ラバータさん(31)は、妊娠6カ月の時に自身のインスタグラムやフェイスブックに時折、粉ミルクの広告が表示されるようになったことに気付いた。

1年後の今は1日に3回から4回で、代表例はレキットベンキーザーの「エンファミル」か、ネスレの「ガーバー・グッドスタート」だ。

「実際、けさも私のフィードにはガーバーの広告が出た。最初は赤ちゃんの笑顔を投稿するコンテストについてで、その後はいろんな種類の粉ミルクや商品が次々に」とラバータさん。

ソーシャルメディアに広告が流れ込むようになって間もないころには突然、オンライン登録した先から乳幼児用ケア用品のセットが届き、その中には粉ミルクも含まれていた。

こうしたマーケティング手法は世界保健機関(WHO)が4月29日に公表した報告書で指摘した、デジタルメディアを通じた「母乳代用品の不適切な販売促進活動」に当たる。

WHOは今年2月、今回の報告公表に先立ち、粉ミルク業界で「強引な」販売戦略が幅広く行われていると警鐘を鳴らす調査結果を発表した。ユーロモニターによると、今年の粉ミルクの売上高は540億ドル余りに増加する見通しだ。

WHOの研究者は、報告で「母乳代用品メーカーは、最も不安定な時期の妊婦や母親に対し、ソーシャルメディアのプラットフォームやインフルエンサー(インターネット上で強い影響力を持つ投稿者)から直接アクセスする手段を買っている」と指摘。

こうした企業はアプリや相談サービス、オンライン登録を利用して個人情報を収集し、その消費者に特化した母乳代用品の広告を母親に送っているという。

ラバータさんの経験は欧米諸国では「ごく普通のこと」だと語るのは、報告書の執筆者の1人であるローレンス・グルマー・ストローン氏。「メーカーはデジタル技術を駆使し、こうした女性のアドレスを手に入れて妊娠していると確認し、販促活動を仕掛けるリストなどに載せている」と説明する。

WHOは1970年代から、粉ミルク業界のマーケティング手法を注意深く監視している。81年には法的拘束力のない企業行動規範を作成し、より健康的な選択肢として、可能であれば新生児には母乳を与えるよう推奨している。もちろん、母乳による育児が不可能な親は多く、粉ミルクは欠かせない。

レキットベンキーザー、ダノン、ネスレなどのメーカーはいずれも母乳を推奨しており、マーケティング担当者が母親に対してできること、できないことを細かく規定した独自の厳格なガイドラインを備えている。

ダノンのデジタルトランスフォーメーション(DX)部門グローバルヘッド、メイベル・ルー氏は、女性がオンラインで「常にコンテンツによる接触を受けている」のは事実だが、この問題はソーシャルメディアプラットフォームのアルゴリズムが、ユーザーに関連すると判断した広告を自動的に表示することが大きな原因だと述べた。

レキットベンキーザーは、乳児に最適な栄養に関する不可欠な情報を親に提供し、全ての地域でマーケティングに関する規則を順守しており、こうした各地域の規則はWHOの規範よりも厳しいことが少なくないとしている。

一方、ネスレは2022年末から全世界で6カ月未満の乳児への粉ミルクの販売促進を停止すると発表した。既に163カ国では12カ月未満の乳児用向けの粉ミルクの販促を行っていない。

ただ、ネスレなど一部のメーカーは、独立した「悪質な業者」の行動を管理することは不可能だと主張している。

ネスレの幹部、マリー・シャンタル・メシエ氏は「例えば、中国にいる人がオーストラリアで粉ミルクを買った上で、個人的にインターネット上で売ることは簡単にできる。人々はWHOの規範を知らないことが多いので、われわれがこの問題に関与するのは難しい」と語った。

これに対し、WHOのストローン氏は「この問題に複数の役者が関わっているというメーカーの指摘は正しい」としつつ「メーカーはマーケティング業者に報酬を支払い、誤った情報を拡散するさまざまな団体のスポンサーになっている」と指摘。メーカーの責任を問わないのは、不公平だと反論した。

<増えるデジタル広告費>

WHOは今回の報告書で、6カ月間にわたり乳児栄養に関する400万件のソーシャルメディア上の投稿データを分析した。これらの投稿は24億7000万人に届き、「いいね」、「シェア」、「コメント」の数は1200万件以上に達した。

WHOの調査対象となった264件の母乳代用品ブランドのアカウントは、1日あたりの投稿数が約90回、投稿を受け取ったユーザー数は2億2900万人に上った。

調査会社・ニールセンによると、乳児用粉ミルク業界がレディット、フェイスブック、インスタグラム、ツイッターに費やした広告費は米国だけで2021年に382万ドルと、17年の約2倍に膨らんだ。昨年の乳児用粉ミルクの販売広告費で、デジタルが他の手法を抑えて最多となった。

ネスレのガーバー・グッドスタートなど乳児用栄養ブランドで20件以上のキャンペーンを手がけたインフルエンサー広告代理店・リンキアの共同創業者、マリア・シプカ氏は「2、3年前は予算の5%未満しかインフルエンサーマーケティングに回っていなかったが、今では25%から50%になりそうだ」と述べた。インフルエンサーによるキャンペーンの真の価値は「プロモーションのにおいがしない」ことだと言う。

しかし、広告の頻度が増加し、母親たちはどんどん母乳育児から遠避けられていると、ソーシャルメディアによる販促に懐疑的な見方もある。

ニューヨークの授乳コンサルタント、レベッカ・フォー氏は「インスタグラムでもフェイスブックでも、私の投稿のいたるところに広告が表れる」と言う。「増えているのに気付いた。当然、怒りやいら立ちを感じる」──。

(Richa Naidu記者)

ロイター
Copyright (C) 2022 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、在レバノン大使館の一部職員を退避 渡航回避改め

ワールド

メキシコ「エルメンチョ」死亡で報復相次ぐ、治安当局

ビジネス

米ペイパルに買収観測、複数の買い手が接触との報道 

ワールド

ウクライナ、東欧向け石油施設攻撃 ハンガリーはEU
MAGAZINE
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
2026年2月24日号(2/17発売)

帰還兵の暴力、ドローンの攻撃、止まらないインフレ。国民は疲弊しプーチンの足元も揺らぐ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医師がすすめる意外な健康習慣
  • 2
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体には濾過・吸収する力が備わっている
  • 3
    カビが植物に感染するメカニズムに新発見、硬い表面を突き破って侵入する力の正体が明らかに
  • 4
    米国の中国依存が低下、台湾からの輸入が上回る
  • 5
    ペットとの「別れの時」をどう見極めるべきか...獣医…
  • 6
    揺れるシベリア...戦費の穴埋めは国民に? ロシア中…
  • 7
    少女買春に加え、国家機密の横流しまで...アンドルー…
  • 8
    100万人が死傷、街には戦場帰りの元囚人兵...出口な…
  • 9
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 10
    IMF、日本政府に消費減税を避けるよう要請...「財政…
  • 1
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より日本の「100%就職率」を選ぶ若者たち
  • 2
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く高齢期の「4つの覚悟」
  • 3
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体には濾過・吸収する力が備わっている
  • 4
    「#ジェームズ・ボンドを忘れろ」――MI6初の女性長官…
  • 5
    海外(特に日本)移住したい中国人が増えている理由.…
  • 6
    カビが植物に感染するメカニズムに新発見、硬い表面…
  • 7
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 8
    100万人が死傷、街には戦場帰りの元囚人兵...出口な…
  • 9
    ロシアに蔓延する「戦争疲れ」がプーチンの立場を揺…
  • 10
    オートミール中心の食事がメタボ解消の特効薬に
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中