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焦点:「在宅」遅れるコールセンター 感染不安でも企業が動けぬ事情

2020年05月05日(火)13時50分

企業にテレワークの推進が求められる中、なお残る感染源として懸念されているのが「3密」業務になりがちなコールセンター。契約や情報の管理などが壁で全面的に移行できない企業も少なくない。写真は東京・新宿で4月8日撮影。(2020年 ロイター/Issei Kato)

新田裕貴 山崎牧子

[東京 5日 ロイター] - 新型コロナウイルス封じ込めへ企業にテレワークの推進が求められる中、なお残る感染源として懸念されているのが「3密」業務になりがちなコールセンターの実態だ。京都や札幌のコールセンターで相次いで集団感染が見つかるなど、現場のリスクは依然として高い。しかし、顧客との契約や個人情報の管理などが壁となって全面的なテレワーク化に踏み切れない企業も少なくない。

<感染爆発、常に起きる不安>

顧客からの問い合わせに電話対応するコールセンターでは、多くの人員が密閉された空間で近接した席に座って作業する。電話で話し続ける応対は飛沫を増やす心配もあり、厚生労働省が感染リスクとして挙げる密集、密室、密接の「3密」状態を招きやすい。4月下旬から5月にかけ、日本郵政<6178.T>の連結子会社であるJPツーウェイコンタクトが札幌に持つコールセンターと京都にある情報通信会社ハッピー・ライフのコールセンターで、それぞれ17人と11人の集団感染が確認されている。

「感染爆発がいつ起こってもおかしくない」――通信会社KDDI<9433.T>傘下のKDDIエボルバ(東京・新宿区)でコールセンター業務にあたる社員の1人は、緊急事態宣言の中でも出勤を指示されているといい、不安な気持ちを打ち明けた。

この社員の部署ではリスク低減のため、オフィス勤務のオペレーター数を減らす一方、自宅待機(給与は全額保障)の出番を組み込んだ制度を取り入れた。しかし、自宅待機の人数は1割程度に限られ、オペレーターの過半数以上はなお出勤しているという。「テレワーク設備の導入はやろうと思えばできるはずだ」と、同社員は会社側の対応の遅れに不満を募らせる。

KDDIエボルバの広報は、ロイターの取材に対し、職場での感染予防対策は実施しており、一部の業務についてはオペレーターへのテレワーク導入に向けた準備も進めていると回答した。

エボルバなどのコールセンターが完全なテレワーク体制に踏み切れない大きな理由は、サービスの発注元である顧客企業との契約で業務内容に縛りがあるためだ。運営方法などの変更については顧客の同意が必要となる。

個人向けから法人用まで様々なサービスを提供し、ユーザー数の多い通信業界は、コールセンターも大規模になりやすい。同業界ではNTTドコモ<9437.T>とソフトバンク<9434.T>も、オフィスでのコールセンター業務を継続している。

大手3社とも、オペレーター同士の接触を抑えて感染を防ぐため、出勤する人数を絞って運営しているものの、テレワークへの移行については、「顧客の個人情報を扱うためセキュリティ面で難しい」(ソフトバンク広報)とするなど、慎重な姿勢を崩していない。

<行政側は「整備」求める要請>

コールセンター業務については、行政側の方針が明確でない、という問題もある。4月17日、総務省は電気通信事業者協会に対し、新型コロナ対策の強化を促す要請文書を出し、その中で販売店への来店数を抑制するため、対面接触を伴わない「ウエブページやコールセンターの体制整備に努めること」を求めた。

コールセンター業務の拡充を促したとも受け取られる要請の表現について、同省の担当者は「対面での接客を伴わない形に誘導するため、代替策の一例として挙げた」とし、「顧客の苦情や相談への対応の形まで指定しているわけではない」と説明する。

しかし、対面での営業活動を自粛するとなれば、企業にとってコールセンター業務の大幅な変更は難しい。すでに社会のライフラインとなっている携帯電話サービスの規模や質を維持するためにも、一気にテレワークに全面移行して混乱を招く事態は避けたい、というのが企業側の本音だ。

「実店舗で(来店客と従業員の接触を防ぐため)時短営業にしていることもあり、コールセンターを開けておかないと公共性の高いサービスが途絶えてしまう」とエボルバの親会社であるKDDIの広報担当者は話す。現時点ではオペレーターの陣容縮小をしながら、業務を回している状態という。

携帯各社だけでなく、製造業でもコールセンター業務はテレワーク推進のネックになっている。富士ゼロックスのコールセンターに勤務してる派遣社員の一人は、原則としてオフィスでの通常勤務を指示された。同派遣社員は「感染してからでは手遅れだ」と憤る。

富士ゼロックス側は、業務における感染リスクを減らすため、派遣、正社員にかかわらず「可能な限りテレワークは導入している」(同社広報)と説明。しかし、同社のコールセンターでは、顧客が持つ複写機などと同じ製品をオペレーターがオフィスで確認しながら問い合わせに応対する必要がある。テレワークへの全面的な移行は難しく、「出社してもらう人もいる」と話す。

企業の労働組合に属さない派遣業者などの労務問題を扱う総合サポートユニオンの青木耕太郎氏によると、コールセンターに勤務するオペレーターから、この1か月間で約100件を超す相談が寄せられているという。

政府が出勤者数を「最低7割、極力8割」減らすよう要請する中、コールセンターをはじめ、テレワークが可能な職種でも、いまだにオフィスでの作業を原則とする日本企業は後を絶たない。

米グーグルが4月26日に発表したGPS情報などに基づいて分析したデータでは、新型コロナの感染拡大前と比べ、7都府県の出勤者は30%程の減少にとどまった。

テレワークについてみると、パーソル研究所が4月10─12日に実施した調査で、企業のテレワーク実施率は全国平均が27.9%で、7都府県では38.8%にとどまっているとの結果が出た。3月時点と比べて増加はしたが、テレワーク導入に成功した企業は未だ少数派だ。

<企業の割り切りが決め手>

日本企業による対応の遅れとは対照的に、通信会社のドイツテレコムは、サービスセンターに勤務する7000人全員をわずか4日間でテレワークに切り替えた。プラス(東京・港区)の社内カンパニーであるジョインテックスカンパニーは、クラウド上で電話を受け付けるサービスを採用。固定費のかかる装置の導入と比べ、コストは抑えられていると、デジタルイノベーション推進部副部長の山口善生氏は言う。

チューリッヒ保険会社の日本でのコールセンターのテレワーク化でシステムが採用された米アバイア日本法人の加瀬健・マーケティング部部長は、コールセンターのテレワーク化を短期間で進めるには、一部のオペレーションが制限され得ると指摘。企業として「どこまで割り切るか」が成否を決めると話す。チューリッヒでは現在、オペレーターの95%がテレワークに移行している。

テレワークの推進はいま企業に求められる最優先の安全対策のひとつだ。解雇や労災などの労務問題を手掛ける東京法律事務所の江夏大樹弁護士は、すべての企業には、労働者が安全に働けるよう配慮しなければならない義務(安全配慮義務)がある、と強調する。

同弁護士は、「十分な感染予防対策を取らなければ、(従業員を)感染の危険性に晒すということで、安全配慮義務の違反になり得る」と指摘。「労働者の生命・身体・健康の権利を優先して保護すべき」だとし、政府が会社の営業活動を制限する法律の必要性を訴えている。

(編集:北松克朗、平田紀之)

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